軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

582.皆にうつってなくてよかったわ

馬車で待つリリーに事情を説明し、大急ぎで屋敷に取って返した。幸い、公爵邸は王宮に近い。途中で護衛の騎士の一人が気を利かせ、医師の手配をしてくれた。

「ローザリンデお嬢様のお部屋を用意して」

イルゼの指示で、侍女達がさっと動き出す。ディにうつすといけないから、別の部屋が必要なの。医師が来るまでに、タオルや水枕が用意された。水枕は金属製の枕に水を入れて、柔らかなタオルで包む。そのため冷えるまでに時間がかかった。

冬に 湯(・) た(・) ん(・) ぽ(・) として使えると話したら、びっくりされたわね。あくまでも病人用で考えられ、使われてきたそうよ。嫌がるローズの隣に座り、ぽんぽんと背中を叩く。ぐずりながらも、徐々に瞼が落ちてきた。眠さが勝ったみたい。

到着した医師がそっと脈を取り、額の温度を確認する。やっぱり風邪で間違いなさそうだけれど、明日は熱が高くなると言われた。薬を用意してもらい、抱き着いたローズの背中を撫でる。

「ほん……」

「そうね、何がいいかしら?」

「おしめしゃまの」

オムツしたお姫様みたいに聞こえて、くすっとした。運ばれた絵本は、最近のローズのお気に入りよ。レオンは違う本が好きで、今は英雄譚だった。

お姫様が庭で見つけた猫を大切に育てた。ところが大きな獣が襲ってきて、お城から逃げるお姫様を猫が助けるの。水を探したり、食べられる木の実を教えたり。やがて森の魔女にたどり着いて、助けてもらうお話。魔女が魔法をかけると、猫は王子様に変わった。

この世界には魔法がないけれど、前の世界みたいに魔法の概念はあった。魔法に興味を示したレオンが「ぼくも」と強請るので、いつか使えるといいわねと微笑んだのを思い出す。魔法がある世界だったら、私は何をしようかしら?

やっぱりレオンのお母様がいいわ。そしてローズを産んで、ディも授かるの。ヘンリック様が微笑んでいて……あら、魔法なんて要らないわね。

熱が出てきたのか、潤んだ目と真っ赤な顔でローズが先を促す。王子様に魔法をかけるところで、しゃらららん! と効果音を付けた。これがお気に入りなの。鼻が詰まったのか、ずずっと啜りながらローズは目を閉じた。

ぷひゅーといびきとは違う音がする。苦しそうではないから、大丈夫そう。しっかりしがみついたローズの体温は高く、リリーが冷やしたタオルを手渡す。交換しながら、窓の外の暗さに気づいた。そろそろ、ヘンリック様も戻って来る。

「お出迎えは無理そうね。ヘンリック様にそう伝えてくれる?」

「承知いたしました」

タオルを冷やす水を交換していたイルゼに頼み、ディの様子を聞く。体調不良はなく、ミルクもしっかり飲んだ報告にほっとする。家族皆にうつってなくてよかったわ。熱が高くなってきたローズは、水枕に抱き着いた。

今なら抜けられる? 出かけた際のロングワンピースのままだから、着替えたいわ。下りようとしたけれど、ローズの手がしっかりとスカートを掴んでいた。

「こうやって……脱いだらダメ、よね?」

ワンピースを残して本体だけ抜け出るイメージを伝えたら、イルゼに「とんでもない!!」と叱られてしまった。やっぱりダメだったわ、いけると思ったのだけれど。