作品タイトル不明
57-1.(領民の子)初めて触れた楽器
音楽は聴いたことがある。でも、俺が楽器に触っていいなんて。本当に平気なのか? 不安になりながら、綺麗なお姉さんが差し出した金属製の楽器に触れた。さっき、すごく目立つ音がしていた。トランペット? という名前みたいだ。
「こうして吹くんだよ」
領主になるエルヴィン様より少し年上の、綺麗な服の人が教えてくれた。たぶん貴族だと思う。貴族がよくお忍びで綿の服を着るけど、一目でわかるんだよな。歩く姿がすっとしてて綺麗だし、服から臭いがしないんだ。清潔で髪も整えてある。
日焼け具合も全然違って、とにかく「綺麗」が溢れているのが貴族だった。貴族のところで働く人も、綺麗な人が多い。顔もそうだけど、手の動きや歩き方も。憧れても同じには出来ないけどさ。
「あの……触れて、いいんすか」
出来るだけ丁寧に尋ねる。汚い手で触るなと殴られるかもしれない。おどおどと尋ねたら、前の領主様が来た。学校で文字を教えてくれる先生だ。全然貴族っぽくないんだよ。綺麗な服着てるのにさ、俺らに近い感じで。
「安心していい。自由に触れて演奏していい楽器だ。私の娘が嫁いだ先から、プレゼントされたんだよ」
先生の娘さんは貴族だ。すごい家に嫁いだんだろうな。こんな立派なお土産を持ってきてくれるんだから。教わって吹いてみるが、音がしない。空気の漏れる音だけだった。壊れたのか? 不安になったところで、他の人が吹いた。ちゃんと音がする。ラッパみたいな音だった。
「ちゃんと練習すれば鳴ります。ただ、しばらくここが痛いかもしれませんね」
やや疲れた頬を指でつつく。笑顔で教わって、他の楽器も触らせてもらった。鍋の蓋みたいな金属をぶつけて音を出すのや、叩くと音が出る太鼓は俺にも簡単にできる。でも最初に触れたトランペットを覚えたかった。
「学校に置くから、いつでも練習したらいい。ただ、家の手伝いが終わったらだよ」
先生に言われて頷いた。幼馴染みのサラは、横笛に夢中だった。銀色で細長くて、ボタンがいっぱいだ。楽器の名前は学校で教えてもらうことになった。きちんと磨いてからしまうのだと教わり、頭に思い浮かべたのは両親の道具だった。
草刈りの鎌や鍬は手入れをしないと錆びてしまう。だから片付ける前に洗って乾かし、油を塗っていた。あれと同じか? 片付ける姿も見ていたら、遅くなってしまった。迎えに来た両親に楽器の話をする。触ることができて、教えてもらった。明日からも学校で使っていいんだ。
「そう、よかったわね」
お母さんと手を繋ぎ、サラも一緒に広場へ向かった。最後にすごい演奏があるんだってさ。新しい領主になる若様の弟……つまり、領主様の……ん? まあいいや、ピアノを弾くって。ピアノだけの音楽は初めてだ。ドキドキしながら、村の人達がいる場所に合流した。ここからだとピアノが見えない。
「子供は前にでろ、ほら」
村長さんの指示で前に出たら、お父さんや近所のおじさんが抱き上げてくれた。高くなってよく見える舞台には、黒い艶のあるピアノが置かれている。出てきたのは俺と同じくらいの……あれ? もしかしてユンじゃねえか? いや、さすがに違うか。
あんなに小綺麗な奴じゃないし。ピアノなんて弾けないだろ。でももしユンだったらさ、俺にも楽器の扱い方を教えてくれるかも。期待しながら、耳を澄ませた。