作品タイトル不明
55-2.(ゲレオン)夏祭りの四つの舞台
演奏は数回に分けて行われる。そのため、誰がいつの時間帯か記された文面が回ってきた。書類ほど堅苦しくなく、けれど手紙と呼ぶには箇条書きで……不思議なことに枠があるだけで読みやすい。これは書類の形式に取り入れたら、いいんじゃないか?
口に出したら、すでに王宮で取り入れられているそうだ。ケンプフェルト公爵夫人が何気なく作った書類からヒントを得て、実用化されたとか。才色兼備とはああいった人を指す言葉なのだろう。夫である公爵閣下が常に隣にいて、後継の若様が元気に走り回っている。
「ぼく、ばーん! するの!!」
嬉しそうに両手を打ち鳴らす仕草をする若様は、何の楽器だろうか。頭に楽器の形が浮かんだものの、咄嗟に名前が出なかった。唸る間に、同行した侍従が太鼓と木琴を用意し始める。大きな広場は四角い。その四方向の面すべてに舞台があった。
ティール侯爵家が準備するのは、西側の舞台だ。東にはピアノが鎮座しており、調律も始まっていた。南は様々な楽器が並び、楽団と呼ぶ状況だ。残った北側に、住民達が楽器を持って集まっていた。彼らに交じって、ケンプフェルト公爵家の使用人が準備している。
「演奏は順番らしい。まず、北からで……西、南、東か。最後がピアノだけで締めるのは意外だな」
予定表を見ながら、自分達の順番を確認する。バルシュミューデ公爵家から夫人のユーリア様が、嫡男のローラント様と西で参加……なぜ次男のランドルフ様が北なんだ? ああ、若様の補佐だからか。あとはリースフェルト公爵夫妻が西だな。ご令嬢は今回参加しない。
なんでもありの北と南、西は打楽器が多めだが弦楽器も混じる。東だけピアノのみ。不思議な構成だけど、楽しみだ。自分の演奏以外は観客でいいってことか。わくわくしながら、太鼓の音を確認する。周囲でもバイオリンやオーボエなど。様々な楽器の音がしていた。
住民達が参加する北は、ケンプフェルト公爵家の使用人やシュミット伯爵家が交じるようだ。クラリネットなどの音に交じり、カスタネットも聴こえた。いつものツンと澄ました演奏会より、ずっといい。楽しそうな住民達も、一張羅なのか……小綺麗な服装で整えていた。
明るい午後から、北の演奏が始まる。公爵家の使用人は貴族の子弟が多く、楽器の扱いも慣れていた。そこに交じった領民は笑顔で、楽しそうに音を奏でる。まさしく「音楽」だった。村で夏祭りに演奏される曲をいくつか披露し、皆で一礼して終わる。
次が俺達か。母上はヴァイオリンを構えた。オイゲンも木琴の前で合図を待つ。最初の音はバルシュミューデ公爵夫人のピアノから……ゆったりとした舞踏曲が響き始めた。