軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

55-1.(ゲレオン)夏祭りの演奏会に向けて

父上の音痴は知らなかったな。思わぬ暴露に、母上を凝視してしまった。そんな重大な秘密、バラしていいのだろうか。いや、隠せる状況ではないか。

「夏祭り……他の奥様達にも声を掛けましょう」

大喜びの母上は手紙を書きに部屋へ戻る。事前にシュミット伯爵家に問い合わせなくていいか、あとで父上に確認しておこう。何かに夢中になると、母上は話を聞いていないから。あの思い込みの強さは、ときどき暴走する。

以前、オイゲンに怒鳴った時もそうだったな。後悔するとわかっているのに、あんな言葉を吐いて。案の定、すぐに後悔した。あの事件で、親子関係どころか弟の性格が変わった。まるで別人だ。預けられたケンプフェルト公爵家で何が起きたのか、恐ろしいくらいだな。

昔の真面目で優しい弟に戻ったのは、僕にとっても嬉しい限りだ。ティール侯爵家を継ぐ僕のサポートとして、子爵になると宣言したオイゲンは勉強も熱心だ。以前は剣を振り回すだけだったが、婚約者も出来て幸せそうだった。あれこれ励む原動力が、シュミット伯爵令嬢なのかもしれない。

「皆にも連絡してやろう」

すっかり人が変わったオイゲンは、バルツァー子爵家やシラー男爵家とも付き合いが続いていた。それどころか、バルシュミューデ公爵家の次男とも仲がいいと。どうなっているのやら。人脈が広がるのは素晴らしいが、弟に追い上げられている気分になるな。

くすくす笑いながら「頑張れ」と背を押した。

久しぶりの太鼓を練習し、運び出す手筈を整えた。夏祭りまで指折り数える段階になり、あまりにも参加者が増えすぎた演奏会に思いを馳せる。一時期は王家の方々の参加まで噂されたが、さすがに警護の問題で不参加となった。王族まで動員できるなんて、フォンの称号は凄いな。

代わりのようにバルシュミューデ公爵家が参加表明、一緒にリースフェルト公爵家も……となれば、他の侯爵家や伯爵家も黙っていない。騒ぎが大きくなりすぎて、別の演奏会が予定された。今回は人数を絞って、かなり小規模になったはずだ。

ティール侯爵家は、オイゲンの婚約者ユリアーナ嬢の繋がりで参加が決まった。公爵家も姉君が嫁いだケンプフェルト家のみだ。

貴族は嗜みとして楽器や声楽が選ばれやすい。というのも、絵や彫刻は才能が必要だった。歌や楽器はある程度扱えれば、それなりに恰好がつくし。考えながら、母上のバイオリンを確認する。ケースごと執事に手渡し、木琴を梱包する侍従に指示を出した。

人前での演奏か……わくわくする。星空の下で叩いたら、さぞ気分がいいだろう。数日後の祭りを想像し、僕は口角を持ち上げた。