作品タイトル不明
54-2.(オイゲン)知らなかった意外な一面
木琴が得意なのだが、参加するのに木琴を持参するのは大変か。うーんと唸っていると、兄上が声を掛けてきた。
「どうした? オイゲン」
「えっと……夏祭りで演奏する際、木琴を運ぶのは大変だろうと……」
「構わないよ。ティール侯爵家から荷馬車を出せばいい。僕の太鼓も一緒に運んでもらおう」
「兄上も演奏を?」
笑顔で頷くから、久しぶりだなと驚いた。家を継ぐために難しい勉強を始めた頃から、太鼓に触れなくなった。大きい太鼓も小さな太鼓も、兄上は器用に演奏する。憧れたけれど、同じ楽器は諦めた。追いつける気がしなかったから。それで打楽器で選んだのが、木琴だった。
ただ移動に向かないので、人前で披露することは少ないけれど。
「昔みたいに、ゲレオン兄様と呼んでくれないのかい?」
「……いつの話ですか」
まだガキだった頃でしょう。むっとして言い返したら、兄上はからからと明るく笑って、俺の肩を掴んだ。振り払って逃げれば、追いかけてくる。昔に戻ったみたいで楽しかったけれど……その先で侍女とぶつかりそうになって、避けたら花瓶を割った。
「うわっ、やっちゃった」
「悪い。僕がふざけすぎたな。母上には僕から謝っておくよ」
兄上はそう言って、破片に手を伸ばした。慌てて止める。青ざめた侍女からも「おケガをなさると大変です」と片づけを拒まれた。わたわたと騒ぐ現場に、タイミングがいいのか悪いのか。母上が通りかかる。割れた花瓶に目を見開き、甲高い声で叫んだ。
「あなた達! ケガをしていない? 壺(・) なんていいのよ。あなたも、片づけるなら箒を使いなさいね」
駆け寄って俺と兄上にケガがないか確かめ、ほっとした後で侍女にも声をかけた。以前は怒られたけれど……まず心配されたことが嬉しい。素直にふざけていて割ったと口に出し、兄上より先に謝罪した。というか、壺じゃなくて花瓶だけど。
「僕が割ったことにしようと思ったのに」
「そんなかっこ悪いこと出来ない」
兄上と俺を交互に見て、母上はこつんと小さな拳を額に当てた。痛くないし、赤くもならない。ただぶつかった程度の 拳骨(げんこつ) だった。
「割ったけれど謝ったからオイゲンはこれで終わり。弟を庇うのは立派だけれど嘘をつこうとしたゲレオンも終わり。もういいわね?」
母上がこんな解決をしたのは、初めてじゃないだろうか。まるでケンプフェルト公爵夫人みたいだ。ああ、そういえば……よくお茶会に誘われていたっけ。ふと思いついて、母上に話した。
「母上、ケンプフェルト公爵夫人の弟ユリアンが夏祭りで演奏するそうです。一緒に行きませんか? シュミット伯爵領なら近くですし……俺と兄上も参加します。そうだ! 母上はバイオリンが弾けましたよね? 父上は……何か楽器できたかな」
折角だから全員参加で、演奏しよう。思い立って提案したら、母上が残念そうに笑った。
「参加するけれど……私はともかく、あの人は音痴だから無理よ。楽器なんてとんでもない」
ティール侯爵家当主で、王宮に出仕して公爵閣下の補佐をするあの父上が……音痴? 驚いて固まったら、兄上も「おんち?」と繰り返していた。母上は「内緒よ」と笑ったけれど、もう遅い。そっか、父上は応援に徹してもらおう。ユリアンの演奏を乱すと悪いからな。