作品タイトル不明
38-2.(カール)私なりの成果がでた
領民に苦労させた詫びも兼ねて、学校を開いた。と言っても、住んでいる屋敷の片隅を使っている。まだ通ってくる子は少なく、その理由は「子供は稼ぎ手の一人だから」という悲しい現実だった。
きちんと伯爵として領地を治め、繁栄していたら……子供達を働かせずとも皆は生活できたはず。しかしこのままでは子供達は学ぶ機会を得ないまま大人になる。それはもったいないし、将来の選択肢を狭める結果に陥る。貧しいからこそ、学ぶべきだった。
無理に押し付けることも出来ず、試行錯誤した。その中で、学びに来たら土産にパンを与える方法を採用する。途端に、通ってくる子供の数が増えた。子供を働かせることに罪悪感を覚える親も少なくない。学んで読み書きや計算ができれば、子供の将来が広がる。わかっていても明日のパンが優先だった。
数年後の成果より、今日明日の食事が先だ。そこへパンと教育、両方が得られる方法を提示した形だった。ふかふかでなくていい。真っ白である必要もない。家族が食べるのに困らない大きさの、ライ麦パンを用意した。
「本当にくれるの?」
「ああ、明日もあげよう。だからきちんと勉強しなさい」
尋ねた女の子は嬉しそうに頷いた。隣の男の子は計算を覚えたいと言う。本を読みたい女の子もいた。誰もが新しい体験として学びを受け入れ、手の届かなかった未来を夢見る。
「商売しているところで雇ってもらいたい」
計算ができれば叶う。
「僕は本をたくさん読みたいんだ。それで書く人になりたい」
文字の読み書きの先を望んでいた。
「一つずつ叶えようか」
否定せずに受け入れた。子供達の夢は泡のように儚いが、とても美しい。アマーリアがしていたように、微笑んで頷いた。一度もピアノに触れたことがなかった悪ガキが、ピアノの道に進んでいるように……この子達にも素晴らしい未来が待っている。
少し手助けをするつもりで、夢中になった。我が子に教えた経験が、そのまま生きる。何もできず領地を奪われ、家族を路頭に迷わせた私でも、求められる場所があった。嬉しくて夢中になり、エルヴィン達に叱られる。
「体に気を付けて」
「倒れたら困るよ」
咳き込んだら心配する子供達に、お礼を言って授業を続けた。途中から入ってくる子もいるから、何度も同じ個所を繰り返し教える。飽きることはなかった。反応は一人一人違う。目を輝かせて学ぶ子供の姿に、こちらが勇気と感動を貰っているのだから。
ふと気づけば、二年が過ぎていた。一番最初に通い始めた女の子が、報告に訪れる。
「あたし、お役所の仕事が決まったの」
何度直してもEの文字を左右逆に書いていた子が、嬉しそうに笑って頭を下げた。
「先生、ありがとうございました! 頑張ります」
体に気を付けて頑張るんだよ、そう告げる声は震えて顔は涙でぐしゃぐしゃ。見苦しい私に、彼女は「先生も無理しないでね」と手を振った。それから何人も巣立って、学校は気づけば三倍の規模になっていた。通っていた子が先生になり、役人になり、商人の補佐を始める。
領地の明るい未来が近づいたようで、やっと肩の力が抜けた。シュミット伯爵領を継ぐエルヴィンの力になれたなら、亡き妻にも顔向けできるな。