作品タイトル不明
37.(ユリアーナ)淑女の小さな夢
久しぶりに会った双子の兄は、大人びて見えた。離れてから、まだそんなに時間は経っていないのに。他人行儀にならないよう、気を付けて言葉を選ぶ。
「おかえり! ユリアン。何日泊まっていけるの?」
元気に話しかければ、以前と同じように軽口が返って来る。でも突然「前より綺麗になって」とか言われたら、恥ずかしくなった。淑女教育はきちんと受けているし、先生にも褒められる。優秀な自分に自信もあった。なのに、ユリアンは全然違う人みたいに成長していて。
負けた気分になる。勝ち負けじゃないけれど、すごく悔しかった。考えてみたら、貴族令嬢が淑女になるのは当然よね。ユリアンは次男が目指すのが当然とされる騎士や文官じゃなく、別の世界に飛び込んだ。演奏家って、芸術家と同じだもの。
ユリアンが新しい世界で頭角を現しているのに、私は足踏みしたまま。そう感じた。焦りが広がっていく。小さな世界で褒められて、いい気になっている場合じゃないわ。オイゲンと結婚して騎士の奥様になるのは素敵な夢よ。そのためにほかの努力が必要だわ。
上達したユリアンの演奏を聞いて、余計にそう感じた。ユリアンが帰ってすぐ、私はお姉様に相談したの。私だけが目指せる何かが欲しい、と。
「ユリアンに負けていると感じたのね?」
「……ええ」
「なら、どの状態なら勝ったと思えるかしら?」
言葉にして問われて、視線が泳いだ。お姉様は意地悪な質問をしたわけではないわ。ただ流れで普通に疑問を口にした。なのに、私は答えられない。拳を握った。
拳を包むように、お姉様が触れる。両手で優しく、温かく、その感覚に力が抜けた。自然と拳は解けていく。
「双子だから競ってしまうとしても、同じ世界に立つわけではないの。ユリアーナにしかできないこと、表現できないことがあると思うわ」
お姉様の言葉はいつも穏やかだ。感情任せに叫んだ姿なんて、ほとんど記憶にない。私の目指す淑女は、きっとお姉様のような人だ。誰かを笑顔にする、気遣いの上手な人。社交界に君臨したり、人々を支配する高貴な雰囲気をもっていたりもいいけれど、私には無理よ。
地位も権力も財力もない。オイゲンも次男だから、私が侯爵夫人になる未来もなかった。でも、夫となるオイゲンを支えて、他家から一目置かれる夫人になることは出来る。
「私、オイゲンが誇れる奥様になりたい」
「素敵な夢よ。ユリアンの演奏家の夢と、両方とも叶うことを信じているわ」
私の目標は、お姉様。双子でも同じ人間ではないんだもの。ユリアンとはいつか分かれていく。それが早く来ただけよ。有名演奏家になったユリアンを呼んで、オイゲンの妻になった私はお茶会を開くの。あちこちの貴族夫人が集まる場で、自慢するのよ。
叶えられると信じてくれるお姉様がいるんだもの。頑張れるわ。