軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29.(侍従の実家)お猫様になったらしい

息子アヒムが筆頭公爵家様のお屋敷に勤めると聞いたときは、そりゃ驚いたさ。さして大きくもない商家の倅だよ? 礼儀作法だって、やっとこさの状態なのに。失礼を働いて咎められないといいけどね。

あたしの心配をよそに、アヒムはやる気だった。旦那が認めてやれと言うからさ、定期的に連絡をよこすことを条件に認めたんだよ。仕事が順調なこと、美味しいお料理を食べさせてもらい、屋根裏の部屋をもらったこと。アヒムは嬉しそうに毎月手紙を書いてきた。

何年か経って安心していた矢先、アヒムはとんでもない騒動を起こしたんだ。先月だったか、ネズミ捕りの上手な母猫が子猫を生んだ話を書いた。商家に嫁いですぐ、義母に習った文字は仕事でも役立っている。こうして息子に手紙も出せるし、届いた手紙も自分で読めるんだから。商家に嫁いだことに感謝するばかりだよ。

もう亡くなったけど、義母も義父も優しかった。アヒムが素直に育って、立派な仕事を得て……安心してたのもあるのかね。長男のクルトが今月の手紙を受け取ったと聞き、大急ぎで洗濯を終わらせた。駆けつけると、すでに旦那が手紙を読んでいる。

「何が書いてあったんだい? 貸しておくれ」

「あ、ああ」

悪い報せでもあったのか。受け取った手紙を夢中になって読み、最後のアヒムの署名まで目を通した。信じられなくてもう一度読み直す。間違いない。だけど、そんなことあるのかね? 公爵家の人が子猫を探してて、この粗末な家に見に来るだなんて。

商家としてはそれなりの規模だが、建物が大きいのは店や倉庫のほうだ。それだって立派とは言い難い。義父の代で建てた古い建物だった。家なんて、そのまた前の代に建てたって聞いてる。こんな家に、高貴な方々が? お通しできないだろ!

「こ、断っとくれよ」

「公爵家様だぞ? 断れないよ」

クルトが困った顔で俯いた。そりゃそうだね。子猫が欲しいって仰ってるみたいだけど、猫は言葉が通じないんだよ? お屋敷の壁を引っ搔いたり、お高い絨毯の上でおしっこしたり、もしかしたら高貴な方の手に爪を立てるかも!

「猫の無礼ってのは、あたしらの所為になるんかね?」

「わからん」

貴族様による、確かにそうだ。子爵家以下のお貴族様としか取引したことないけれど、無理難題を仰る方もいれば穏やかな方もいる。雲の上の方々が何を考えているかなんて、想像もできないよ。お屋敷に大量のネズミでも出るのかねぇ。

心配していたら、全部欲しいと引き取っていった。野良だった母猫なんて、懐かないだろうに。大丈夫なのかね。あれから二年経つ。アヒムから届いた手紙には、信じられない内容が綴られていた。創作した話じゃないだろうね? 猫専用のお部屋に、猫観察用のガラス?

……想像が追い付かないよ。ただこれだけは間違いない。あの猫の親子は、あたしらより豪華な生活をしている。噛みついて殺されなくてよかったよ。ほっとしながら、膝に上ってきた黒猫を撫でる。椅子の足元には、仕留めたネズミが転がっていた。

「よく頑張ったね、ほら」

褒美に干し肉を与え、艶のある黒い毛皮を撫でる。

「あんたも、引き取ってもらったらお貴族様の暮らしができたんだよ? 残念だったねぇ」

にゃーんと鳴いた黒猫は満足そうに、顔を洗い始めた。明日は天気が崩れるのかねぇ。