作品タイトル不明
28-2.(ヘンリック)小さな秘密と笑顔
ある日、猫を飼うと聞いた。相談の形だが、ほとんど決定しているようだ。期待の眼差しに「嫌だ」とは言えなかった。いや、言いたくない。自覚はなかったが、俺はいろいろ我慢してきたらしい。フランクやイルゼはもちろん、アマーリアにも指摘された。
やりたいことをしてもいいのなら、過去に諦めたものに手を伸ばしたい。絶対に無理だと諦めた猫や犬、小さな願いや遊び、羨ましかった触れ合いまで。何もかも欲張りたかった。
「欲張って構いません。無理なことは、そう伝えますから」
寝室でレオンを寝かしつけたアマーリアは、そう言って俺の頭を抱き寄せた。柔らかな胸元に引き寄せられ、背に腕を回す。そっと頭を撫でる手も、こんな風に抱きしめられたことも、俺の記憶にはなかった。嬉しいと伝えて、ふと気づくと……レオンの目がぱちりと開いていた。
真ん中で眠るレオンは、驚いたように俺と目を合わせる。凝視すると表現すれば近いのか。口が動いたのを見て、小さく首を横に振った。アマーリアを驚かせてしまう。その意図が伝わったのか、レオンは小さな手で口を塞ぐ。こくこくと頷いて、目を閉じた。
明らかに、無理に瞑ったとわかる。ぎゅっと顔をしかめて目を閉じ、もぞもぞと上掛けを引っ張りあげた。顔を隠す戦法か。なかなかに賢い。離れる際にさりげなくレオンに上掛けを掛け直し、しっかりと隠した。アマーリアは気づかなかったようで、挨拶して横になる。
艶の出た栗色が混じる金髪を撫で、俺も横になった。上掛けの下で、レオンの手が指先をそっと掴む。しっかりと握り返し、二人の秘密を確認し合った。レオンが起きて見ていたことは秘密だが、俺もレオンも……アマーリアに聞かれたら話してしまうだろうな。脆い同盟だが、小さな経験は俺の財産だ。
あっという間に話が進み、猫が引き取られた。当初の話では子猫だったのに、母猫もセットになる。母子を引き離すのかと気になっていたので、ほっとした。母猫は警戒心が強く、なかなか人を寄せない。だが子猫は好奇心のほうが勝るようだ。世話をする者にじゃれついた。
母猫が落ち着くまで、世話をする以外は見るだけ。もどかしいが、これからのほうが長い。譲歩するのも悪くないか。
「おとちゃま、ずゆい」
狡いと騒ぐレオンは、ゆっくり手を伸ばす。だが触れる直前に、母猫アイに「シャーッ」と威嚇された。なぜか俺の膝に乗って、強気なんだが……あれか? 上位者の権威を利用して自分を大きく見せる部下のような。
「手を下から出してみろ」
先日、世話係の下女に教わったのだ。猫は大きな手が上から来ると怖がる。下から差し出し、猫が匂って確認を終えるまで動かさないのだと。同じように伝え、レオンが真似するのを待つ。今度は威嚇されずに触れられた。
「しゅごいね!」
嬉しそうに笑うレオンは、素直に人を褒める。アマーリアが褒めて育てたからだろう。ぎこちないながらも「よくできた」と褒めてみた。にっこり笑う息子の顔に、ようやくアマーリアの気持ちが理解できた気がする。レオンの笑顔は、俺も笑顔にしてくれるようだ。