軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.(リリー)猫は癖になる

ケンプフェルト公爵家のお屋敷に、猫がいる。不思議すぎて、当初は意味がわからなかった。家具で爪を研ぐし、毛は抜ける。洗濯の下女や衣装係の侍女にしたら、爪を研ぐ猫は天敵だわ。もし夜会のお衣装に毛がついていたら? 裾の刺繍で爪を研がれたら? 考えるだけでぞっとした。

家具や壁を傷つける意味では、掃除や備品の管理をする侍従達も大変そう。若様もお嬢様もまだ幼く、いつ傷つけられるか。心配は尽きなかった。奥様の手前、猫が苦手とは言えない。

にゃーん。みぃ……。愛らしい声でも誤魔化されません。絨毯についたシミを拭きながら睨む。まったく意に介せず、猫は腕に頬ずりをした。雑巾を持つ手に擦り寄り、ごろんごろんと転がって甘える。無視して、シミを叩いた。

猫を飼った経験のある同僚の話では、綺麗好きだと聞いたのに。確かにトイレは自分で専用の箱に入るから、そこらに排泄はしない。でも、いきなり吐いたのよ? けっ、けっ、と変な音をさせたと思ったら、食べた物を吐き出した。ほとんど消化前の状態だ。

固形物を片付け、残ったシミを丁寧に抜く。奥様の専属侍女の仕事ではないけれど、見てしまったら放置もできなかった。猫達に餌を与えに来ただけなのに、運が悪かったわ。膝をついて無心でシミと格闘する私は、背中に重さを感じて驚く。

「……え? ちょ! ダメ!」

白い子猫が背中に飛び乗っていた。いつも奥様達とガラス越しに見ていた時、一番最初に駆け寄ってくる元気で人懐こい子猫だ。名前は……シロだったっけ? その子が背中に飛び乗っていた。四つん這いで作業をしていたため、焦ってしまう。

毛が服についたら、奥様や若様に運んでしまう。外で服を確認する手間が増えた。がくりと崩れ落ちそうになるが、ぐっと堪える。手間が増えたということは、時間が足りなくなるのと同じ。嘆いている時間が惜しいわ。

背中を揺らしても下りない猫に痺れを切らし、背筋を伸ばした。すると、予想外の痛みが!

「きゃあああっ、何?!」

「あ、動かないでください」

猫のトイレ掃除に来た係の下女が、背中の子猫を回収してくれた。彼女は猫の世話係として昇格した子だ。本来は、高貴な方々の目に触れる屋敷内を下女が歩き回ることはない。猫を片手で器用に掴んだ下女は「ダメでしょ」と白猫を叱った。

「背中……傷になっているかもしれません。爪を立てたようです」

毛がついたどころの騒ぎではない。大きく溜め息を吐いたら、今度は別の子猫が膝に乗ろうとしている。慌てて止めた。全力で防ぐ。

「私が片付けておきますので、治療をなさってください」

「ありがとう、任せていいかしら」

お礼とお願いをして退室した。ガラス越しに見ていると、可愛いと思えるけれど。私は苦手かも。

あれから一か月。奥様や若様に同行する形で猫に接することが増え、いつの間にか抱き上げることに抵抗がなくなった。三か月も経てば、猫に触れないと一日が終わらない。なんてことかしら? まるで中毒性のあるお酒みたい。溜め息をついて、今日も猫達の部屋に向かった。

ぐにゃりと柔らかな腹部を吸わせてもらうために。