作品タイトル不明
25.(ベルント)最高の職場ですよ
執事としてお屋敷に勤めて、二十年余り。先代の公爵閣下ヨーナス様は、屋敷に一切寄り付きませんでした。そのため、私の職務もほとんどがお屋敷での待機です。何もせずお給金がもらえるのだから羨ましいと口にした下男もいましたが、何もしない苦痛もあります。大好きな猫でもいれば、気が紛れるのですが……。
王宮の意向で、世代交代はかなり強引に急いで行われました。ご子息のヘンリック様がケンプフェルト公爵家を継承され、仕事で王宮へ詰めることが増えました。家令となるフランク様は屋敷を離れることができません。自然と私の仕事場は王宮となりました。旦那様のお世話と仕事のお手伝いが主です。
あんなに仕事が欲しいと願った時期もあったのに、実際に仕事が増えると休みたくなるのが人間です。身勝手なようですが、真理でしょう。立派なお屋敷があり、奥様がお待ちだというのに……旦那様は王宮へ泊りがけの仕事ばかり。
奥様がお亡くなりになられても、若様に寄りそうことはありませんでした。それが変わったのは、あの風変わりな伯爵令嬢が嫁がれてからです。新しい奥様は結婚式会場に放置され、私も置いて行かれました。告げられたのは一言「屋敷へ連れ帰っておけ」です。
さすがに酷いのでは? と思いますが、言っても通じないでしょう。旦那様はそういうお方です。嫁がれた奥様は、驚くべき方でした。
「おか、しゃま!」
笑う若様を抱っこして移動する姿を、思わず二度見します。儚い印象のご令嬢……いえ、昨日から奥様になられたお方が細腕で、若様を抱えている。落とさずに歩くだけで感心しました。貴族家のご令嬢は見た目以上に儚い印象だったのです。それを覆す逞しさで、若様に向き合われました。
数日ご一緒した後、旦那様のお世話に戻ります。ですが、お屋敷からの報告には驚く内容が記されていました。奥様は若様と外で食事を……外? 庭ではなく? ご一緒にお風呂へ入ろうとなさったので止めた話や、ベッドで抱きしめて眠った話に目を丸くしました。
ご自分のお子様でもないのに、それ以上の愛情で接しておられる。苛立っていた旦那様も、徐々に絆されていきました。今では定時で帰るのが当然で、そのために王宮の仕事内容を改革なさったほど。早く帰る施策を次々と打ち出し、今では権限がかなり分散しました。
旦那様お一人で奮闘なさらずとも、王宮も国の政も回るようになっています。奥様が直接関与したわけではないですが、事実上、奥様の功績でしょう。ケンプフェルト公爵家へお仕えできることに、誇りを感じております。ええ、もちろん……以前よりも強く。
最近の楽しみは、数日ごとの休日です。執事見習いを選び、彼と仕事を分担しました。休みの日に、お屋敷の猫達と戯れることが一番の楽しみです。たまに旦那様や若様、奥様ともご一緒します。猫好きな使用人達により、猫部屋の環境は快適に保たれてきました。今後も変わらないでしょう。
猫を飼いたい夢も叶い、最高の職場で文句のつけようがないご家族に奉仕できる。この職場に、あなた様も加わりませんか?