軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-2.(ベッティーナ)思い出のあの味

焼けたお菓子は問題なく美味しかった。厚みも大丈夫だし、オーブンの火加減は絶妙だったわ。厨房で働く人にお礼を伝え、前日も焼くことをお願いした。手伝ってもらう必要もあるし、仕事の邪魔をしているのだから、伝えるのが当然だ。

「ご安心ください、準備のお手伝いをさせていただくことが嬉しいのですから」

料理長は穏やかな口調でそう話した。前国王の振る舞い、我が儘を知るから納得してしまう。ルイーゼも今では野菜を残すことなく、最後まで食べるようになった。食べきれないときは、手を付ける前に量を調整することも覚えた。

家族で仲良く厨房を訪れ、身分や立場に関係なく調理を楽しむ。その姿が何よりの褒美だと笑う料理長へ、重ねてお礼を口にした。材料の手配をお願いし、思い付きで材料を追加する。

昔、まだ王妃候補になる前のマルレーネに食べさせた手作りのお菓子があった。甘くて綺麗なそれを、あの子はとても喜んで何度も強請った。懐かしく思い出して、作ってみたくなったの。

「日持ちするから、明日にでも作ってしまおうかしら」

「内緒になさるのなら、そのほうがよろしいかと。材料は揃っておりますので、いつでも歓迎です」

大切な職場を貸してくれる料理長に感謝しながら、翌日の約束を取り付けた。何食わぬ顔で仕事に戻り、書類を片付ける娘の手伝いをする。明日の昼過ぎにルイーゼと遊んであげる約束のマルレーネは、温室ではなく薔薇園へ行くと聞いた。

「お母様もご一緒なさる?」

「素敵なお誘いだけれど、先約があるの」

遊びに行けば、その後はルイーゼのお昼寝がある。まだ六歳になったばかりの孫娘は、午後の休憩が必要だった。眠くなって機嫌が悪くなるのよ。あと数年だから、その時間も楽しんだらいいわ。母親目線でそう伝えたのは、つい先月のこと。よその子と生育状態を比べてしまったらしい。

ルイーゼは言葉もなかなか上達せず、運動能力も同年代に劣る。ゆったりしていて、年下のケンプフェルト公爵令息と同程度かしら。だから余計に気が合うのね。ルイーゼにはルイーゼの成長速度がある。無理に詰め込んでも、本人が嫌がったら終わりだった。

「あなたも運動面では遅いほうだったのよ」

王妃教育の詰め込みが始まったから、机に齧りついて学んでばかり。自然と運動量が足りなくなった。走り回って遊ぶ時間を作ってあげたかった後悔を口にしたことがあり、マルレーネはルイーゼの成長が気になったのね。申し訳ないことをした。

「たとえ足が遅くとも、ダンスの上達に時間がかかっても……あなたのような淑女に育ちます。安心なさって、王太后陛下」

マルレーネが自ら掴んだ地位を口にして、努力は必ず報われると伝えた。気づいた娘の目が潤み、瞬きで涙を消す。立派になったあなたと同じ、ルイーゼも素敵な女性に育つわ。母親だった私の勘が教えてくれるの。結構当たるのよ?