軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

10-1.(ベッティーナ)娘や孫と過ごす庭で

私の手は汚れています。それでも、あの決断を悔やんだ日は一日もないわ。何度同じ場面に戻されても、必ず今と同じ決断をするでしょう。

孫のローレンツにエスコートされて、厨房を出た。地下なのは下側だけで、上半分に窓を作って地上からの光を取り込んでいる。そのため、眩しさは感じなかった。ただ自然と肩の力が抜けて、笑顔が浮かんでくる。

「やっぱり地上に出ると、ほっとします」

ローレンツが丁寧な口調で話すので、私も応じた。

「ええ、半地下の厨房で働く人達に感謝しなくてはいけませんね」

廊下を進み、途中で中庭を通る。中庭の端を横切る形で、石の廊下が造られていた。壁はないので、雨が降れば濡れてしまう。屋根と床、柱があるだけの廊下だった。いまのように晴れていたら、心地よい風と光が溢れる。

前を歩く娘マルレーネは、孫ルイーゼと手を繋ぐ。ご機嫌のルイーゼは反対の手を国王となったカールハインツと繋いだ。口に出すときは気を付けるけれど、心の中では我が子や孫に敬称はつけない。それでいいと笑ったのは、マルレーネだった。

悪夢から解き放たれた娘は自由に羽ばたく。戸惑うマルレーネの背を押したのは、ケンプフェルト公爵夫人だった。彼女のお陰で、家族が今の形でいられる。感謝してもしきれない恩人を呼んでお茶会をすると聞き、準備の手伝いを申し出た。

お菓子を手作りしたいマルレーネに、細かなことから教える。計量の重要性、混ぜ方や泡立てのコツ、焼くための温度など。まるで普通の母子のようだった。もし、王妃候補に選ばれなければ……侯爵家の屋敷で一緒にお菓子を焼いたのかもしれない。

侍女に用意させたお茶を楽しみながら、東屋で寛ぐ。腕が疲れたとカールハインツがぼやけば、ローレンツが笑う。「兄上の鍛え方が足りないのでは?」とからかう姿に、ルイーゼがお菓子を半分に割った。二人にあげるつもりだったのね。

残念ながら同じ大きさに割れなくて、片方が大きかった。両手をじっと見て、大きい右手側を齧る。大きさを調整するつもり? でも齧りすぎて、今度は左手側を慎重に食べた。両方をじっくり眺めて、兄達に差し出す。

「これ、あげるから……喧嘩はダメよ」

「ああ、これは姫君。光栄です」

「齧ったのか? まいっか」

丁寧に受け取るカールハインツと、乱暴な口調のローレンツ。どちらも手つきは慎重に受け取った。一口でぽんと食べる二人に、ルイーゼが嬉しそうに足を揺らした。椅子に座って足をぶらぶらさせるのは、行儀の悪い行為だ。でも、家族だけなら注意しなくてもいい。

以前のルイーゼなら心配だけれど、今の彼女は人前で無作法をしなくなった。年齢相応の失敗はあっても、王族らしく取り繕うこともできる。

「おばあ様も、あーん」

微笑ましく見ていたら、羨ましそうに見えたのかしら? ルイーゼがお菓子を差し出した。でも丸ごと……せめて半分が良かったけれど。

「ルイーゼ、お母様にも半分頂戴」

マルレーネが助け舟を出し、半分に割られる。また失敗して両方を食べ比べた挙句、元の大きさの二割ほどまで小さくなった。思わず声を出して笑ってしまい、皆が同じように笑う。でもルイーゼは唇を尖らせることなく、一緒に笑い出した。容赦なく、私の口に小さくなったお菓子を押し込んで。