軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8-3.(ローレンツ)お菓子作りは初めてだ

朝起きて、騎士団の鍛錬に加わる。近衛騎士団は王族の直属だから、外へ戦いに行くことがない。敵と切り結ぶ技より、護衛対象を守る剣術が重視された。俺が近衛騎士団の剣技を学ぶのは、家族を守りたいからだ。

母上はもちろん、兄上、妹、おばあ様。誰一人欠けることなく守り抜くために、強さはいくらあっても足りない。走って体力をつけ、素振りから始まって一汗かいたところで水浴びをした。まだ暑いくらいの季節なので、水で十分だろう。

かつては王子殿下がそのような、と眉を顰めた侍従達も慣れたようだ。口うるさく言わなくなった。代わりに侍女達に注意される。髪から水が垂れている? 掃除したばかりの廊下は光っていて、振り返れば確かに水の跡があった。

「すまない、あとで俺が掃除するよ」

「いえ、掃除は私達が行います」

丁重に断られたので、もう一度詫びて「次からは気を付ける」と付け加えた。そんなに怒ってなさそうだが、焼いたお菓子でも差し入れるか。

以前ならなかった気遣いが、自然と頭に浮かんだ。彼女達だって同じ人間だから、きちんと詫びるべきだ。たとえ王族に仕えることが仕事で、給金が支払われるとしても。掃除したばかりの場所を汚されて、謝罪も反省もなかったら腹が立つから。

侍女が気持ちよく仕事をして、侍従も腹を立てずに一日を終える。文官は残業がなくなり、騎士団も余計な仕事を増やされない。毎日家族と過ごす時間は大事だから、それを奪うのは気の毒だった。こういう感覚、おばあ様や母上が何度も話してくれなかったら、身につかないだろう。

タオルで髪の水をしっかりと拭い、もう垂れないのを確認して厨房へ向かった。母上がお菓子を作るようになったから、自然と場所を覚えた。それまで興味もなくて、半分地下になっているのも知らなかったんだ。

食材の保管は地下がよくて、火を使うから緊急時の消火なども考えているらしい。近くにある池から水路が引かれており、火事になったらすぐ流せる仕組みだった。これは兄上と確認したっけ。階段を下りて鉄扉を開ければ、すでに母上は準備を始めていた。

「あれ? ルイーゼは?」

「お母様と一緒よ。もうすぐ到着するわ」

他人行儀にベッティーナ夫人と呼ばない母上に頷き、重い粉を運んだり砂糖を計量したりと準備を手伝った。ある程度揃った頃、ルイーゼがおばあ様と到着する。きちんと手を繋いで、走らない。しっかり淑女教育が身についてきたようだ。

「ところで、お菓子の作り方ってどうなってるんだ?」

手伝う気はあるが、全く知らない。そう伝えたら、ルイーゼが得意げに胸を張った。

「あたしが教えてあげる」

背伸びする妹が可愛い。にやけそうになる口元を引き締め、真剣な表情で会釈した。

「ルイーゼ姫が教えてくれるのか? 光栄だな」

明るい笑い声を立てる妹が飛びつくのを抱き上げ、ふと思い出した。まだ来ていないが、兄上の執務は終わらなかったのだろうか。