軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

9-1.(カールハインツ)初めての細かい作業

かなり急いで片付けたが、これは遅刻だな。言い訳するより素直に謝ろう。そう思いながら、厨房の鉄扉を叩いた。勝手に開けても構わないが、遅れたくせに失礼だろう。

厨房に鉄扉が使われる理由は、いくつかある。衛生的な問題で、水洗いしても平気な金属製が好まれた。加えて、ネズミなどの害虫対策も兼ねている。一番驚いたのは、ここで火災が起きても城を燃やさない工夫だった。扉を閉めて、上から水を流して満たす。これで消火できる仕組みだった。

数世代前は、厨房を外に別の建物として造った記録がある。運ぶ間に料理が冷めるうえ、途中で転んだりして料理が無駄になることもあったとか。同じ建物内に造ると決めた先祖に感謝だな。お陰で私達は温かく美味しい料理を口にできる。

「すまない、遅れた」

「兄上! よかった、お忙しいのかと心配しました」

弟ローレンツは、笑顔で迎え入れてくれた。お礼を言って入れば、すぐにおばあ様がエプロンを手渡す。帆布という船に使う分厚い布製だ。ごわごわするが、この厚さなら火傷の心配もなさそうだった。

「カール、これを混ぜて頂戴。ローリィは粉を 篩(ふる) うの」

「お母様、その呼び方はやめてください」

唇を尖らせて抗議したローレンツは、頬も膨らませた。騎士団の鍛錬に交じり、しっかり体を作った弟の幼い仕草に、ぷっと噴き出してしまう。笑ったと睨まれても可愛いし、おかしいし。さらに笑って怒らせた。すまないと謝ったが、どうしても頬が緩んでしまう。

幼い頃だけ使っていた愛称だ。ずっと使わなかったのに、突然どうしたんだ? そう思うが、楽しそうなお母様の表情に口を噤んだ。

「ほら、ローリィ。早く粉を振ってくれ」

「兄上まで! 怒りますよ……それと、振るのではなく篩うです」

何が違うのか、手元をじっと見ていたがわからない。 篩(ふるい) に入れた粉を振ってるじゃないか。単語は後で調べるとして、言われた通りに混ぜていく。さっくり? それはどうやるんだ。

「こうよ」

おばあ様が、縁からひっくり返すように混ぜるのを見て、なるほどと学ぶ。新しい分野では常に素人で、それが新鮮で楽しかった。細かく計量した材料だが、ルイーゼがくしゃみをして粉が吹き飛ぶ。真っ白になったルイーゼは、泣かずに大笑いした。

呆れ顔のお母様がルイーゼの顔を拭いて、もう一度計量をやり直した。料理もそうだが、そんなに細かく調整するのか? 料理人は毎日こういった作業を繰り返している……それは尊敬に値するな。私は尻のあたりがむずむずしてきた。こういう細かい作業は苦手みたいだ。

新しい発見も、挑戦したからこそ。出来た生地をしばらく「寝かせる」と放置した。その間に粉で汚れた手を洗い、次の道具を用意する。食べ物を作る苦労を知って、今後は食べる際にもっと感謝しようと決めた。