作品タイトル不明
8-1.(ローレンツ)変わっていく家族
ルイーゼは可愛くなった。我が儘は言うけれど、以前みたいに腹が立たない。無理を言わなくなかったからかな? 母上はケンプフェルト公爵夫人を真似て、ルイーゼを育てたみたいだ。確かに振る舞いが似てきたかも。
父上がいた頃は、ルイーゼは本当に憎らしくて。人の嫌がることを平気でする奴だったな。だからなのか、侍女にも嫌われた。面倒を見たくないと異動や退職を申し出る使用人がいたほど。父上が甘やかして、何でも叶えたのがいけない。
あの頃は母上がどんなに注意しても、ルイーゼは聞かなかった。父上に泣きついたら、全部叶うんだからそうだろう。俺だって同じ立場なら、好き勝手にしたと思う。父上が病でいなくなって、すぐにおばあ様が来られた。
人前では「ベッティーナ夫人」と呼んだ時期もあったけど、今は「おばあ様」と呼べる。初めて呼んだときは、おばあ様が泣いてしまって。悪いことをしたのかと慌てたっけ。
ケンプフェルト公爵が結婚してから、何もかもがうまくいくようになった。たぶん、夫人がすごい人なんだ。眉間に皺を寄せて難しい顔をしていたケンプフェルト公爵が、機嫌よく書類を捌く姿なんて……文官の中で噂になったぐらいの珍事だ。一部の騎士や貴族が見に来たくらいだった。
「ローレンツ王弟殿下」
兄上が王位を継いだから、自然と俺の肩書きが「王の弟」になった。頷いて足を止めれば、兄上に渡す書類を抱えた秘書官だ。側近として、シンドラー侯爵家から入った人だった。シンドラー侯爵家はおばあ様の実家らしい。
「どうした?」
「王太后陛下がお呼びです」
「母上が? わかった、ありがとう」
自然にお礼が口をついた。これは母上が始めたことだ。王族で上位者でも、何かしてもらったらお礼を言う。ケンプフェルト公爵夫人の方針だが、今は上位貴族の間で広まっている。誰だって仕事を褒められたり、お礼を言われたら嬉しいからな。
恥ずかしさで口籠った時期もあるが、今は普通に言える。ルイーゼも覚えて、口癖のように「ありがと」と笑う。お陰で侍女達の評判もよくなった。以前の悪評が嘘のようだ。
兄上の執務室へ行く予定を、母上の部屋に変える。昨日のお茶会で出た、四日後の話だろうか。突然話が出たように振舞っていたが、実はバルシュミューデとリースフェルトの両公爵家には事前に了承を得ていた。それも万が一の時は予定をずらす許可まで。
根回しして切り出すところが母上らしいけど、普通に連絡すればいいのに。たどり着いた部屋の前で足を止め、身だしなみを確認する。以前にボタンが外れていて注意された。問題ないと判断し、ノックする。応じる声と同時に、内側から扉は開いた。