作品タイトル不明
6-1.(ユリアン)リア姉の居場所が家
ピアノを選んだのは、エル兄の邪魔になりたくないのもある。でも上手になりたい。もっと弾いていたいのが、一番の理由だった。
ケンプフェルト公爵家は居心地が良くて、あのまま暮らしていたら、気持ちが消えてしまいそうに思えた。だから飛び出したけれど、時々戻りたくなる。師匠アウラー様の許可を得て、顔を出した。不思議と、この家が実家のような感じだ。たぶん、リア姉のいる場所が家なんだろうな。
「お帰りなさい、ユリアン」
「おかぁりなちゃい、ゆん」
女の子の方が成長が早いって本当なんだな。まだ二歳なのに、ローズはそれなりに話す。出会った頃に三歳だったレオンよりすごい。
「おかえり! ユリアン。何日泊まっていけるの?」
お前、淑女教育受けてるんじゃないのかよ。と言いたくなる気持ちを抑えて、抱きつく妹を受け止める。最近、本当に綺麗になってきた。子供の頃はそっくりだったのに、もう入れ替わりごっこもできないな。街のクソガキどもを騙して遊んだ時を思い出し、苦笑いする。
「なに? その顔。私に会えて喜ばないなんて、失礼よ!」
「違うって。前より綺麗になって、もう入れ替わりごっこできねぇなって思ったんだよ」
「ああ、あれは楽しかったわ」
話す間に、つんつんと袖が引かれた。視線を足元へ向ければ、レオンが待っている。ユリアーナと目配せして離れ、屈んで視線を合わせた。
「ただいま、レオン」
あ、様をつけたほうが良かったか? そう思ったけれど、これで正解だったみたいだ。へにゃっと笑い、レオンが抱きついた。受け止めたけれど、勢いを殺しきれず尻餅をつく。
「って! やるなぁ。大きくなった!」
おっさんみたいな発言だな、と思って自分で笑う。よく考えたら、義理とはいえ叔父だった。おっさん発言でも構わないのか。
半ズボンのレオンは、もうすぐ五歳だろう。まだ二年なのに里心がついた俺だけど、レオンやローズに忘れられないよう、適度に顔出ししたほうがいいな。
「入れ違いだったわね。一昨日までエルヴィンやお父様がいたのよ」
「え? 残念だな、次は先に連絡するよ」
リア姉が笑いながら手を差し伸べる。受けて立ち上がり、レオンも同じように起き上がった。昔と同じ、当然のように手を繋ぐ。揺らしながら、繋いだ手を見るレオンはご機嫌だった。リア姉が可愛いを連呼するのも、わかる。
「ろじぃ、も」
ローズがてくてくと寄ってきて、俺ではなくレオンと手を繋いだ。それもそうだ。ローズにとって、俺は突然現れた人だもんな。やっぱり、もっと顔出ししよう。
「あら、エルヴィンと同じ反応されているわ」
明るく言い放つリア姉につられ、ユリアーナもからりと笑った。そうなのか? エル兄もやられたのか。今度からかってやろう。