作品タイトル不明
5-2.(エルヴィン)街の視察は目線を低く
街の視察も定期的に行う。父上のやらかしの後、領主を務めた親戚は、全く以て何もしなかった。水害が起きた地域は放置、橋が崩れそうな場所も同じく。街道の石畳の修復も行わなかった。
徴収した税を何に使ったのか。彼らの贅沢に浪費された。国に納めた金額も誤魔化されており、差額は一時的にケンプフェルト公爵家が立て替えている。義兄上には頭が上がらないな。コツコツと返していく予定だが、義兄上は先に領地の改善をしろと言った。
足元が揺らいでいるのに、借金を返す心配をしても仕方ない。儲かったら払う、くらいでいいと。借金取りの心配がなく、利息すらほとんどゼロの有難さが身に染みた。そもそも我が家が生活のために負った借金は、姉上の結婚で埋め合わせされている。
いつか満額返せるよう、一歩ずつ頑張ろう。
以前は閉店した空き店舗ばかりで寂しかった街道沿いも、徐々に人通りが増えてきた。人が通れば商売になると、商店が開く。ケンプフェルト公爵家へ続く街道が賑わえば、周辺も移住や開店が始まった。
宿屋を中心に、食料品や雑貨の販売、料理屋などが展開する。見て歩くだけで楽しかった。この街を発展させ、領地全体を豊かにする。覚悟を新たにした僕は、懐かしい店を見つけた。親戚に奪われる前、屋敷に住んでいた頃か。父上と母上に、パンを買ってもらった。一緒に姉上も……。
意識がパン屋に向かい、左右を確認せずに踏み出した。同行したローマンさんが「危ない!」と叫ぶ。え? 足を止めたところへ、何かがぶつかった。
「うわっ」
「いたぁ……」
押されて転がった僕は、咄嗟に受け身を取っていた。騎士団で鍛えられた成果か。通っておいてよかったな。一緒に打ち合ったオイゲンを思い出しながら、ぶつけた尻を押さえて身を起こす。正面に転がるのは、やはり尻を押さえた少女だった。
「ごめん、前を見ていなかった。ケガをしたのかな?」
「っ、いいの。あたしもちゃんと見てなかったしさ……あんた、いいところの坊ちゃんだろ? 悪かったね」
街では有名な少女らしい。周囲の店から「アン、前見て歩け」「またやったのか」と呆れまじりの声が飛んでくる。
「アン、と言うの?」
「そう。あんたは?」
「エルだよ」
エルヴィン様と呼びそうになったローマンさんに、首を横に振る。ちょうどいいや。この子に道案内を頼もう。視察なんだから、民の目線で生活を見ないとダメだ。観光客気分で、ふらふらしても表しか見えない。
「エル? ふーん。この街は初めて? だったら、案内してあげる」
アンからの申し出に、僕は笑顔で手を伸ばした。先に立ち上がって、彼女が掴んだ手を引っ張る。埃を払って、互いの髪についた砂を落とし、ローマンさんを振り返った。
「彼女に案内してもらえそうだ」
「わかりました、私はあの店で休んでいます」
もしかして、デートと勘違いされたかな? そんなんじゃないのに。