作品タイトル不明
4-5.(ユリアーナ)頬が緩んじゃう
二杯目は紅茶に切り替え、甘いジャムを沈める。この方法、お姉様やバルシュミューデ公爵夫人がしていたの。そう説明したら、興味深そうにオイゲンが覗いた。
「へぇ、甘すぎないのかな。混ぜるの?」
「マナーの先生はこのまま軽く揺らして、風味をつけるだけと仰っていたわ。お姉様はしっかり実を潰して最後まで頂くの。でも出先では我慢しているみたい」
内緒よ、と笑いながら教えたら、オイゲンは肩を竦めた。
「公爵夫人らしいな。想像できた」
一緒に暮らしたことがあるから、お姉様が貧乏性なのも知っている。食べ物を粗末にするのは大嫌いだし、私もお姉様と飲む時は苺ジャムの実まで食べていた。温められて甘さが増すし、好きなのよ。
「人前でも問題ないと思うけれど、優雅さと見栄で生きるのが貴族だからね。その点でダメなのかな」
屋敷で家族と一緒に飲むなら、食べちゃってもいいと思うぞ。オイゲンは考え方が柔軟だった。こういうところ、すごく魅力的に感じる。他の子みたいに、外側だけじゃなくて内側も見てくれる気がした。
「あのさ……これ、受け取ってくれるかな」
オイゲンはそっとテーブルへ箱を置いた。小さな箱で、ラッピングのリボンはない。何が入っているのかしら? 視線で問うも、オイゲンは何も言わない。リボンや包装紙のない白い箱は、手のひらより少し大きかった。
手元に引き寄せて、蓋を開ける。きっちり下まで重なる箱だから、ふわりと浮いた。下の部分を手で支えたら、軽いわ。
「っ! 綺麗、ね」
出てきたのは、半透明の小さな石がついた腕輪だった。銀の鎖は繊細なレース編みのよう。幅は親指くらいで、小粒の小さな石が複数付いていた。透明、ピンク、青、黄色、緑、紫、赤、の七つね。
「素敵、虹みたいな色。細かくて夢のようだわ」
「気に入ってくれた? 母上のアドバイスも受けて選んだんだ。その……色が違う宝石を七つ並べるとお守りになると聞いて」
話しながら腕輪を拾い上げたオイゲンは、私の左腕に着けてくれる。うっとりしていたが、冷たさにハッとした。
「こんなに素敵なもの、いいの?」
高かったんじゃない? と聞きたい。でも失礼よね。用意してくれたなら、断るほうががっかりさせちゃうし。オイゲンが、こんなに素敵な細工を私に似合うと思って選んでくれたことが、言葉にならないほど嬉しい。
「お守りだから、普段使いしてくれ」
「っ、うん。ありがとう、大切にするわね」
後でお義兄様やお姉様に相談しよう。クラバットのピンか、カフスボタンをお返ししたいの。だって、私が選んだものをオイゲンに着けてもらいたいから。彼もこんな気持ちで選んでくれたのかも。
お店に並ぶお菓子を選んで包んでもらう間も、腕輪が気になる。しゃらりと上品な音を立てる銀細工を、何度も指で撫でた。手を繋いで馬車に戻っても、私の緩んだ頬は元に戻らなかった。