作品タイトル不明
4-3.(ユリアーナ)デートは大きめの帽子で
迎えにきたオイゲンにエスコートされて、先に馬車の座面へ腰掛ける。お姉様に対し、目的地や帰宅予定時間をきちんと話すオイゲンは、丁寧に挨拶をして馬車に乗り込んだ。
「気をつけてね」
見送るお姉様に手を振り、オイゲンと向かい合った。いつも上位側の席を譲ってくれる。隣に並んで腰掛けたらいいのに、と疑問に感じていた。思い切って、オイゲンに提案する。
「ねえ、お隣に腰掛けたらどうかしら?」
「っ、嬉しいが……その……」
嫌ではなさそう。お姉様より私のほうが察しはいいはず。でも、オイゲンの言いたいことがピンとこなかった。
「嬉しいなら隣でいいでしょう?」
再び疑問をぶつけた。彼はもじもじと迷った後、やや上目遣いで呟く。
「肩が触れる程度は許されるが、抱き寄せたらダメだろう? それに隣に座ったら腕や膝が触れるかもしれない」
「そうね。それって問題なの? 婚約者同士だもの。大丈夫だと思うわ」
私が淑女教育で習った範囲なら、問題ないはず。正論をぶつけると、ううっと呻いて顔を両手で覆ってしまった。
「俺が我慢できなくなって、君に口付けようとしたり襲いかかったりしたら、どうするんだよ」
「そうやって心配するなら、大丈夫だと思うわ」
なるほど。男の子は我慢が苦手だって、ユリアンが言っていた。兄が二人もいるから、ちょっとは知っているつもりよ。
「俺はユリアーナを大事にしたい。だから隣に座らない」
ぴしっと言い切られてしまい、そのまま馬車が進んでいく。どうしよう、顔が緩んじゃう。せっかく可愛く仕上げてもらったのに、口元が綻んじゃうの。ニヤニヤしていたらおかしいから、頑張って引き締めた。
「いい店を教えてもらったから、一緒に寄ろう。そこでお土産も買って、午後のお茶に間に合うよう公爵邸に送って行くよ」
今日の予定は、お洒落なお店らしい。ティール侯爵夫人がお勧めの、お菓子のお店だった。中で飲食ができるので、お昼ご飯を予約したみたい。楽しみだわ。
「お昼には早いから、植物園で歩こうか」
「素敵ね」
ツバの広い帽子を用意するよう言われていたので、助かったわ。きっと侯爵夫人のご意見ね。未婚の淑女がツバの広い帽子を着用する理由に、結婚前に男女で距離を詰めすぎない意味もあると習った。そのほかには、婚礼前の肌を焼かないため。噂にならないよう顔を隠すのにも最適だと。
オイゲンはこういった雑談がとても好きなの。男性は教わらない知識だから、興味深いと言っていたわ。代わりに私も知識を分けてもらう。お姉様も言っていたけれど、本来、知識には男女の垣根はないはず。知らないことを覚えるのは楽しいわ。