作品タイトル不明
1-1.(ランドルフ)背伸びしたい年頃
「にぃ!」
猫のような声をあげて、ローズが手を伸ばす。最近は歩き回り、あちこちで転んで大泣きしていた。どうやら兄であるレオンを追い回しているらしい。足元を、白い猫がすり抜けていく。最近は屋敷内を自由に歩いていた。
「どっちのにぃ?」
側近候補になって二年、かなり言葉が達者になったレオンは、こてりと首を傾げる。俺とレオンなら、絶対にレオンだろ。
「にぃ」
困ったように唇を尖らせるローズが泣きそうだ。呼んでいるのに抱きしめないから。苦笑いして進み出れば、慌ててレオンが駆け寄った。俺を睨んで「僕がにぃだから!」と主張する。だったら、焦らさないで抱きしめてやれ。
「ロジィ、おいで」
目を輝かせて、素直に腕に飛び込むローズは公爵夫人にそっくりだ。顔立ちや穏やかな性格、レオンを大好きなところまで。まるで公爵夫人を小さくしたような、愛らしいローズ。いつか俺の手を取って、微笑んでくれないかな? なんて夢に見る。思うだけなら自由だよな。
「ラルフ、手伝って」
自分一人では、ローズを抱き上げられない。そう訴えるレオンは、ようやく五歳になったばかり。先日、誕生日プレゼントの剣に大喜びしていた。ちなみに、ずっと宝物だった布の剣は今も健在だ。俺と打ち合うときは、大活躍していた。
それとは別に、刃を潰した剣を貰った。本格的に鍛錬を始める合図らしい。俺にも同じものを用意してくれた。ケンプフェルト公爵家は居心地が良い。たまに実家に帰っても、こっちの様子が気になるんだ。
お母様は寂しいと言うけれど、妹も生まれて忙しい。乳母も使うが、自分で世話をすると言い出した。お父様は嫁に出さないと今から息巻いているし、お母様まで過保護になったら心配だな。その点は兄上が何とかしてくれるはず。
「もうっ! ラルフ!!」
呼んだのに俺が動かないから、レオンが癇癪を起こした。ごめんと謝れば、すぐに機嫌が直る。こういうとこが可愛いんだよな。もし、生まれたのが弟だったら、レオンみたいな子がいい。駆け寄って、レオンの手助けをする。
ランドルフは言いづらい、と短くしたのはレオンだった。俺はそのままレオンと呼ぶ。公爵夫人が呼び捨てでいいと許可してくれた。余計に弟みたいな気分になって、気兼ねなく接している。側近ってのは、このほうがいいらしい。
「ローズ、いくぞ」
腕の間に手を入れて、よいしょと立たせた。この「よいしょ」は公爵夫人が良く使う。だからレオンだけじゃなく、ローズもタイミングを合わせやすい。にこっと笑うローズに、レオンが手を伸ばす。
右手を繋いで、左手を俺が掴んだ。これでローズを真ん中にして、安全に歩ける。レオンは、公爵閣下と公爵夫人に同じことをしてもらったと聞いた。本当にあの公爵閣下が? と疑ったこともあるが、公爵夫人のお願いなら当然かな。
「かぁ!」
「お母様は、ディのとこ」
レオンはにっこり笑い、まだ歩けない弟ディルクの部屋へ誘導した。生まれたばかりで寝ているだろうが、邪魔にならないかな。こっそりと扉の隙間から覗いて確認してから、と思ったがすぐにバレて。
「おいでなさい」
ディルクを抱く公爵夫人に手招きされた。