作品タイトル不明
571.絵に描いたような幸せ(本編最終話)
ローレンツ様も加わって、レオンは元気に遊んだ。お昼寝の時間を飛ばして、それはもう元気に……でも楽しい時間も終わりがくる。
「もう帰るわよ」
「やっ!」
「また遊びに来ればいいわ」
「やぁあ!」
隣でルイーゼ様も「やぁだ」とマルレーネ様にお願いしている。さすがにレオンやランドルフ様だけ泊まりは無理よ。ローズがいるもの。ヘンリック様も早く帰ってくると約束してくれたし。
視線を合わせるためにしゃがみ、レオンの紫の瞳を覗き込んだ。反射して映る私の顔は、穏やかな笑みを浮かべている。
「レオン、お兄ちゃんになったと言ったのに……ローズを一人にするの? 寂しくて泣いてしまうわ」
「ろじぃ、なく?」
「ええ、大好きなレオンお兄ちゃんがいないと、泣いちゃうわね」
無言で考え始める。この間、ランドルフ様は口出ししなかった。ユーリア様の教育がしっかりしているのだと、はっきりわかる。主君となるレオンの考えを誘導しないよう、見守ることを知っているんだわ。
ローレンツ様はルイーゼ様の気を引く提案をして、誘導する方法にでたわ。甘いお菓子の山に釣られそう。マルレーネ様が困ったように「物で釣るのはどうかしら」と溜め息をついた。
「少しくらい平気ですわ、きっと」
ローレンツ様も、今は仕事をしているカールハインツ様も、しっかりしたお兄様達ですもの。前国王陛下のような甘やかし方はしないはず。
「ぼく、ろじぃ……かえゆ」
「ええ、小さな騎士様だもの。今日はローズを守ってあげて頂戴」
「うん、かえゆ。るぅ、またね」
機嫌が直ってルイーゼ様に手を振る。途端に、彼女が泣き出した。ローレンツ様が抱き上げて、さっさと奥へ連れていく。せっかく泣き止んでいたのに、レオンが止めを刺しちゃったわ。
マルレーネ様のお見送りを頂いて、馬車に乗り込む。腰には大切な布の剣が装備されて。レオンはその剣を撫でてから、馬車のベンチで足を揺らした。ランドルフ様と並んで、よく見れば手を繋いでいる。
兄弟みたい。こういう面倒見の良さは、ユリアンと似ているかも。ローズと会ったら何をするか、三人で相談しながら公爵邸の門をくぐる。当初は気押された立派な門も見慣れて、すっかり我が家の一部よ。迎えるフランクの隣に並ぶイルゼに飛びつき、元気よく「ただま!」と叫んだ。
リリーがランドルフ様に手を貸し、私はフランクに支えてもらって下りる。御者や従僕に任せない家令の足元をすり抜け、レオンがスカートに抱きついた。
「おかぁしゃま、ろじぃ」
「ええ、そうね。会いに行きましょう」
右手を私、左手をランドルフ様と繋いだレオンはご機嫌だった。屋敷の廊下を抜けて……ローズの部屋の前で止まる。そこへ馬車の音が聞こえた。
「ヘンリック様がお帰りみたいね。お母様は迎えにいくけれど、騎士様にローズを任せていいかしら?」
「うん!」
「はい、どうぞ」
二人の小さな騎士から許可をもらい、通ったばかりの廊下を急ぐ。玄関ホールで夫と挨拶を交わし、すぐにローズの部屋を覗けば……なんとも愛らしい景色が広がっていた。
マリーが気を遣ってくれたのだろう、低い位置に揺籠を置いてローズが眠る。その縁に手をかけて、レオンは眠っていた。レオンを守るように、隣でランドルフ様も。きっと疲れちゃったのね。
夕日の差し込む室内で、マーサはそっとカーテンを引く。音を立てないよう、両手で丁寧に。やや薄暗い室内で、ヘンリック様の腕に寄りかかった。
「最高の景色ね」
「ああ、俺にこんな幸せが訪れるなど、想像もしなかった」
「やっぱり、もう一人欲しいな」
「数年待ってくださるお話だったでしょう?」
むっと唇を尖らせるヘンリック様に、触れるだけのキスを一つ。あなたにとっての幸せは、私の幸せでもあるの。すべて叶えましょうね――皆を愛しているわ。一番好きな人へ、もう一度触れるキスを贈った。
The END or…..?