軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

570.まだ一年、もう一年?

この温室を模して、公爵家に造った温室には、この頃果物が植えられた。その話をしながら、二人でお茶を楽しむ。のんびりと過ぎる贅沢な時間が、心地よかった。

「ねえ、気づいていて? 今日はアマーリアと出会って一年目よ」

「まぁ、そうでしたのね」

ヘンリック様と結婚して、一年以上が経過した。その間にいろんなことがあって、私の周囲は一気に鮮やかになる。契約結婚で家族と別れたはずが、あっという間に呼び寄せて。レオンという可愛い息子もできた。我が儘で愛らしい猫が増えて、家族が減って……ヘンリック様は別人のように優しくなったわね。

マルレーネ様だけでなく、王家の方々と縁ができた。バルシュミューデ公爵家、リースフェルト公爵家、ティール侯爵家やバルツァー子爵家にシラー男爵家まで。様々な家と繋がりが生まれたの。

友人が増えて、優しい使用人達とも親しくなれた。奇跡のような一年だったわ。

「そう、幸せでよかったわ」

微笑みながら相槌を打つマルレーネ様は、ご自分も目を閉じて過去に思いを馳せている様子。何かあるなら、お聞きしたいわ。だって、夫である先代国王陛下を亡くされたんですもの。

「私ね、あの人と結婚したことが不幸だったの。だからケンプフェルト公爵が、形だけの妻を娶ったと聞いて、同情したのよ。生まれた子供達だけが救いなのに、あなたはそれもなくて」

言葉を詰まらせたあと、マルレーネ様は大きく息を吐いた。

「でもね、アマーリア。あなたは自分で未来を切り開いたわ。羨ましくて、私も自由になりたくなったの。今が幸せだと聞けて、本当に、心の底から嬉しいのよ」

一回りは年齢が違う。親と呼ぶ年代ではないのに、慈愛に満ちた眼差しが注がれた。何もかも肯定して、私を繋ぎ止めた母のように。王妃の地位を国母と呼ぶけれど、王の母だけでないのね。国全体を愛して慈しむ女性に与えられる称号なのだわ。

「私、マルレーネ様と知り合えたこと、すごく幸運です。いつもありがとうございます」

微笑んだまま、わずかに目を見開いて……マルレーネ様は一粒だけ涙を落とした。綺麗すぎて、指先で掬ったら真珠になるかと思うほど。

「私こそ感謝しているの。この国は良い方向へ向かっているわ。バルシュミューデ公爵夫人が、貴族女性の地位向上に乗り出したのは知っている? あなたに触発されたのよ」

離婚や結婚、不倫に関する相談を受けているとか。リースフェルト公爵夫人も、人脈を生かして子供の救済を始めた。私が公爵領でガラス細工を広めたことで、他領も特産品を探しているとか。

嬉しい褒め言葉と、思わぬ波及効果に驚いた。巻きスカートも広まり、一つの文化になりそう。小さな羽ばたきが、国中に波紋を広げていた。

「おかぁしゃま! これ」

走ってくるレオンは、赤い花を掴んでいる。危ないと思った直後、転んで膝を打った。泣きそうになり、ランドルフ様に手を借りて……ぐっと唇を引き結んで我慢している。何も言わずに手を広げ、待っていると示した。

「おかぁ、しゃま!」

顔を上げたレオンに微笑んだ。また走れるでしょう? あなたは強い子だもの。