作品タイトル不明
566.新しい生活に馴染むのは少し先
パウリーネ様にお手紙を出した。そのお返事によれば、安定期まで発表しないとのこと。ユーリア様も同じ意見なので、知ってしまった情報は呑み込んでおきましょう。
ランドルフ様はしばらく通いで遊びに来ることになったの。ご本人は、お祝いでもらったポニーに乗って通いたいと言い出した。もちろん、却下よ。我が家もバルシュミューデ公爵家も、認めるわけにいかないわ。
乗馬の訓練として、六歳前後でポニーをもらう貴族子息は多い。大きさも手頃で、落ちてもかすり傷で済むもの。ただ、走る速度は遅い。乗るのが子供とはいえ、ポニーには重いのだと思うわ。その状態で不測の事態があれば、逃げられないでしょう?
公爵家の子息がポニーでのんびり歩いて、誘拐されたら事件だった。身の危険だけでなく、ポニーを労ることも話して聞かせたそうよ。ランドルフ様は賢いから、話を理解してくれた。馬車で通うのよね。
シュミット伯爵家の時は、残念ながらポニーを買う余裕はなかった。買ったら飼い続ける必要もあり、出ていくお金が倍増する。毎日の生活で手一杯だったから、余裕がなかったの。エルヴィンは納得したが、ユリアンはごねて。説得に苦労したことを思い出す。可哀想なことをしたわね。周囲と比べて、肩身の狭い思いをしたのではないかしら。
レオンの時は買ってあげよう。自分で選ぶか、私達が選んでプレゼントするか。ヘンリック様と相談しなくちゃね。
「らんどぉふ、いちゅ?」
「明日また来てくれるわ」
「うん」
ひとまず一ヶ月ほど様子を見て、それから用意した部屋に引っ越す。ある程度の荷物は運ばれているので、夜遅くなる時は泊まれるでしょう。ランドルフ様の往復には、侍従も付くそうよ。
「ろじぃ、あしょぶ」
「今は寝ているから、明日遊んでほしいわ。ランドルフ様が来る前、そうね……ご飯のあとはどう?」
「……うん」
昼間が賑やかな分だけ、寂しく感じているのね。ユリアーナも淑女教育で家庭教師が来るから、レオンと遊べる時間は少ない。私が一緒にいても、屋敷の賑やかさが違った。子供は敏感に変化を感じ取るというけれど、本当ね。どうしましょう。
「あら、ヘンリック様が戻ってきたわ。レオン、お父様の迎えに玄関へ行きましょう」
「うん! いく」
「では、小さな騎士様。エスコートをお願いしますね」
そっと手を差し出せば、笑顔で指を絡める。しっかり手を繋いで歩き出した。小幅に歩いて速度を合わせながら、玄関へ向かった。扉が開いて、夫が顔を見せる。
「おかえりなさいませ」
「おかぁり、ませ」
ずいぶん省略しちゃったのね。ただいま帰ったと返すヘンリック様に抱き寄せられ、頬にキスをもらった。待っていたレオンも抱き上げられ、頬にキスをされる。
「明日は休みだ、鍛錬をするか? 馬に会いにいくか」
「うま、たんえん!」
両方なの? 欲張りなレオンの答えに、顔を見合わせて笑う。明日も素敵な一日になりそうだわ。