作品タイトル不明
559.見送りラッシュに、忘れ物!
かなり無理をしたようで、お父様達の馬車はあちこち傷だらけだ。御者はへろへろで、気の毒なくらい疲れている。
「お父様、無理をしてはいけません。エルヴィンも、どうして止めなかったの!」
屋敷の絨毯の部屋に通し、正座させて説教する。足が痺れたと苦しむ二人には悪いけれど、ユリアンとの涙の別れや感動が台無しじゃないの。きっちり叱る私に、エルヴィンは早々に白旗を上げた。
「姉上、……っ、御者は父上と、僕が交互に……ぐっ」
「足を崩していいわ」
同じように正座しているが、私はそこまで痺れていない。体はこの世界産のはずだけど、なぜか平気なのよね。
「交互に走らせてきました。屋敷に荷物を突っ込んで、すぐに引き返し、馬を途中で交換しながら走らせて……」
やっと間に合った。仕方ないわね。痺れた足に触れることもできず、奇妙な格好で転がる二人の頭を撫でた。親でも関係ないわ。
「それなら出発を遅らせればよかったな。荷物だけ先に送り、義父上殿とエルヴィンは後で向かう方法もあった」
「え?」
「あ、本当だ」
二人とも完全に失念していたみたい。荷物と一緒に屋敷を去ると決めつけ、出ていったの? 私はてっきり別れを済ませて離れたのだと思っていたのに。
「じぃじ、える、めっ?」
「そうね、めっ! としていいわよ」
とてとて歩いて、レオンは転がるエルヴィンの足を突いた。おそらく目線の高さに浮いていて、距離が近かったからでしょうね。
「ぐぉおおおっ」
転がって逃げるエルヴィンが、さらに足を刺激されて悶える。それを見たお父様はさっさと降参した。
「っ、レオン……じぃじの隣に、おいで」
場所を指定して、痺れた足を隠す方法を選んだけれど……笑顔でレオンは足を掴んだ。ぎゅっと握り、左右に揺らす。弱点を見極めて攻撃するなんて、恐ろしい子。できる子だわ。
撃沈した二人を置いて、レオンは走ってくる。両手を広げて抱き止め、正座を崩して膝に引き寄せた。
「さて、俺は仕事に向かうとしよう。今夜は遅くなる。義父上殿達は、明日の朝出発にするか?」
「いや、今日中に出発します。そうですね、父上」
エルヴィンの決断で、足の痺れが取れたら帰るみたい。忙しかったけれど、楽しいと笑うエルヴィンは何か吹っ切れた様子ね。以前はこんな無茶をする子じゃなかった。子供らしくていいと思うわ。
先にヘンリック様の見送りね。今日は誰かを見送ってばかりだわ。
「あっ! ランドルフ様とユーリア様は?!」
「客間でお待ちです」
やっちゃった!! 失態に額を押さえ、すぐに立ち直って動き出す。ヘンリック様も忙しく馬車に乗り込み、出掛けていった。ユーリア様をこれ以上お待たせするのは、さすがに失礼すぎるわ。レオンを抱き上げて、客間へ急いだ。