作品タイトル不明
554.不思議と懐かしい部屋
しばらく考えるフランクの様子に、丸投げは酷かったかしらと反省する。でもいい案がないのよ。すると、イルゼが動いた。
「ご家族用で二間続きの客間がございます。間の扉を開けたままにして、旦那様と奥様、伯爵家のお二人と若様で分かれてはいかがでしょうか」
「素敵! それなら未婚の令嬢の醜聞も避けられて、レオンが寂しがることもないわ」
そんな便利なお部屋があったのね。屋敷内を知り尽くしている侍女長でなければ、出てこないアイディアよ。言葉の通り、親族などが宿泊する際に、家族一緒に泊まる部屋らしい。寝室が二間あり、片方は大きくてそちらが夫婦の寝室と居間を兼ねている。
この屋敷は使用人が多いから、使わない部屋もいつだって掃除が行き届いていた。安心して過ごせるわ。通常使う応接室のような客間より、さらに奥にあった。ここは来たことないわ。ぐるりと部屋を確認した。
異国風というか、懐かしい感じがするわね。和風と中華風を混ぜたような、不思議な内装だった。
「こちらは他国に嫁いだ方が、持ち帰られた調度品とお伺いしております」
フランクの説明に、彼が公爵邸で仕事をする前に造られた部屋なのだと気づく。他国に嫁いで持ち帰ったなら、何かあって帰ってきたのね。異国の思い出として調度品を持ってきたなら、帰国は本意ではなかった。
「うわぁ、見たことないのに……知ってる感じがする」
「あ、わかるわ。私もそう思ったの」
双子が懐かしさを感じた原因は、すぐに思い至った。私がこういった意匠の物を部屋に置いていたから。
「二人とも、この壺に懐かしさを覚えたのでしょう? 私の部屋にあった壺は縁が欠けて安かったけれど、柄は似ているもの」
どこかのお屋敷で欠けて、飾れなくなった壺。それを市場で見つけて買ってきた。花を飾るでもなく、ただ置いておくだけ。あの頃はまだお母様も元気で、領地の大きな屋敷に住んでいた。
「ああ、そっか。姉様が嫁いだあと、お父様が食堂に置いたんだよ」
そんなことがあったのね。捨てずにいてくれて嬉しい。小さな思い出を共有するため、お父様に頼んで送ってもらおうと決めた。
「ちゅぼ」
「ええ、じぃじに頼んで送ってもらいましょうね」
「うん」
レオンは初めて見る調度品の柄に興味津々で、螺鈿細工の棚扉を撫でている。猫脚のような柔らかい曲線の椅子の脚も、手を伸ばして触れた。
「この部屋は……幼い頃に入った覚えがある」
他家の屋敷か王宮で見たと思っていたみたい。よほど幼い頃に見たのね。美しい螺鈿細工や漆塗りは、隠しておくのが勿体無いわ。この黒い飾り棚は、黒檀じゃないかしら。
緻密な彫刻に感心しながら、隣の部屋も確かめる。そちらには蚊帳に似た天蓋があった。四隅に柱があり、カーテンのように開く仕組みね。子供達が喜んでいるので、このベッドは譲るわ。
居間に兼ねた夫婦の寝室のベッドを、私達が使う。決まると、リリー達が準備を整えていく。眠るだけだから、化粧品などは私室でいいわよ。そう伝えたら、イルゼに「使用人の仕事ですので」とやんわり注意された。
明日の朝、この部屋をゆっくり見てみたいわ。きっと夜と印象が違うはずよ。