作品タイトル不明
553.「いっちょ!」の威力に勝てなくて
仕事から戻るヘンリック様を迎えて、皆で食事を摂る。料理長に伝えておいたので、ユリアンの好きな肉を中心に並んだ。晩餐のように一皿ずつではなく、いつもと同じ大皿。それでも普段より豪勢なのよ。
デザートも高価なフルーツや焼き菓子を用意してもらった。
「すげぇ! じゃなくて……ありがとうございます、姉上。嬉しいです」
「あら、エルヴィンの真似? 今まで、姉様だったのに」
ふふっと笑い、揶揄えば……ユリアンは開き直ったように胸を張った。
「もう独り立ちするんだから、大人の呼び方しないと!」
「あら、子供じゃないなら一人で寝るのよ」
正論で返され、隣で頬を膨らませるユリアーナの顔を見て……妹を選んだ。
「まだ子供です、姉様」
「よろしい。レオンも一緒に寝てあげてね」
「もちろん!」
双子が頷くのを見て、レオンも頬が緩む。お皿から骨付き肉を取って、手元で切り分ける。ヘンリック様が担当してくれたので、細かくなったお肉をレオンの口に運んだ。
「おとちゃま、あーん」
ヘンリック様が切った肉を私が差し出し、なぜかレオンの手でヘンリック様へ戻された。循環しているわ。
「レオンはたくさん食べて、鍛えないと大きくなれないぞ。ほら」
ヘンリック様はさらに肉を切り分け、レオンに食べさせる。その間に、ちょっとサラダを頂くわね。侍女に頼んで、離れた位置にあるサラダを小皿にもらった。レオンはスープを一人で食べたいと言い出し、現在挑戦中。手出しは許されないので、見守っているけれど。
あっ、溢れちゃう……もっと手を近づけてっ! ああ……やっぱり。
スプーンを口が迎えに行ったのだけれど、うまくいかなかった。きょとんとしているから、失敗の原因がわかっていないのね。
「レオン、見ていて」
ことさらゆっくり手を動かし、同じスープを食べてみせる。足を揺らしながら見ていたレオンは、頷いて同じように口に入れた。
「でひはっ!」
「話すのは、飲み込んでからにしましょうね。でも上手にできたわ」
口に入れた途端に話したので、ほとんど噴き出してしまった。これもまた経験よね。口元を拭ってやれば、ヘンリック様が声をかけた。
「レオン、パンをくれ」
「あい!」
元気よく返事をして、パンを千切る。
「俺にもくれよ、レオン」
「私も欲しいわ」
双子の要望に、レオンは嬉しそうに椅子の上に立ち上がった。お行儀悪いと叱るのは、今日だけ我慢ね。明日からはきちんと叱るわよ。せっかく楽しい食事会だもの。ユリアンの記憶に、説教なんて残したくない。
皆でパンを頬張り、またスープを飲み、サラダを啄む。ヘンリック様は双子の分まで肉をカットしてくれて、賑やかにデザートまで駆け抜けた。
さあ、あとは寝る支度ね。
「おかぁしゃま……おとちゃまも。いっちょ! ゆんと、あにゃと、いっちょ」
え? 全員で? さすがに難しいわね。助けを求めるように、壁際のフランクに視線を向ける。困った時の家令と侍女長! いいアイディアをお願いね。