作品タイトル不明
552.過去の武勇伝は内緒よ
庭師達が蜂の巣を探している。見つけて、場所を移動するらしいわ。今回ユリアンが刺されたことで、ヘンリック様が指示したの。庭で遊ぶレオンやユリアーナにも危険が及ぶし、訓練場の近くに巣があれば騎士が刺される。
事前にわかっている危険なら、避ける方法は見つけやすかった。蜂に刺されないよう、服装は私が決めたの。黒より白が刺されにくいはず。白い服を上下、つばの大きな麦わら帽子も必須ね。。その上から目の細かい網を被って作業する。もちろん手袋は革製にしたわ。
「網が邪魔かと思ったが、意外に動きやすそうだな」
「いい網があってよかったわ」
庭で育てる特別な薔薇に使う予定だったみたい。アブラムシなどの小さな虫を寄せないための、専用の網よ。これなら蜂も入れないから安全だもの。
「王宮の庭師にも教えてやろう」
「それがいいですね。刺されると痛いですから」
どこの貴族家でも大きな樹木がある。垣根だったり、シンボルツリーだったり。そういった場所は、蜂が巣を作りやすいのよ。貴族のお庭は必ず花が咲いている。餌があって巣を作れる環境があって、最高の場所だった。
「ところで、レオンは何をしているんだ?」
「騎士様ごっこですね」
一度見たことがある。ユリアンが歩いていく横から、叫んで飛び出し、木の棒で ち(・) ゃ(・) ん(・) ば(・) ら(・) ご(・) っ(・) こ(・) をするの。この世界では通じない単語だから、騎士様に置き換えた。
「盗賊ではなく?」
「ええ、騎士様ですわ」
広い芝生の上で、カンカンといい音を響かせて打ち合う。すぐに離れて、また同じ繰り返し。レオンに合わせて加減しているけれど、ユリアンも楽しそう。
私達三人は、テラスで休憩中よ。午後からヘンリック様はお仕事があるの。これ以上休むと、陛下にご迷惑がかかると聞いた。ぎりぎりまで休ませてくれたお礼に、差し入れをしてもらう予定よ。
「男の子って、すぐあれなんだから」
もう! 腕を組んで口を尖らせ、不満だと訴える妹。淑女教育はどこへ消えたのかしら?
「あら、ユリアーナも少し前まで同じだったでしょう?」
「……お姉様だって、前に肉屋のむす……もごっ」
うっかり過去の武勇伝を話されそうになり、ユリアーナの口を手で塞いだ。テラスの椅子に腰掛けたヘンリック様が、首を傾げる。
「なんでもありませんわ」
微笑んで誤魔化し、ユリアーナを睨む。頷く彼女から手を離し、お茶菓子を一つ摘まんだ。
「ヘンリック様、あーん」
素直に食べるヘンリック様は、レオンそっくりの笑顔を振り撒く。本当に可愛い人だわ。だからこそ、絶対に聞かせられない。肉代のお釣りが足りないと、棍棒で肉屋の息子を追い回したことなんて……。