作品タイトル不明
550.妹を守るのがお兄ちゃんだもの
ローズは日陰でお昼寝を楽しみ、私は付き添う。ヘンリック様は手を繋いだレオンに促され、あちこちの草木を教えてもらったみたい。白い花が咲くとか、黄色い葉っぱになるとか。楽しかったと笑う彼は、胡座をかいてレオンを乗せた。
絨毯の部屋で過ごすようになって、お父様を真似て覚えたのよ。覚えたては、後ろに転がりそうになったり足を攣ったり、大変だったけれど。今では慣れたもので、レオンを膝に乗せてもふらつかない。
「おとちゃま! これ、あーん」
用意したお皿のお菓子を摘まんで、口元へ運ぶ。礼を言って咥えた途端、残りをぶんどって自分の口に入れる。レオンは鼻歌を披露しながら、お菓子をもう一つ選んだ。
「おかぁしゃま……とぉい」
ローズがいるから動きたくないのよね。でも手をついて前に出たら、届くかしら。レオンが転ぶよりいいわ。そう思って動いたが、先にレオンが膝から飛び降りた。器用に片手と両足で這って進み、私にお菓子を差し出す。
「どぉじょ」
「ありがとう」
私には全部くれるみたい。咥えて半分に割ったけれど、残りを置いていった。ヘンリック様の膝にまた乗り上げる。座椅子みたいな感じで認識しているのかも。
「お姉様、ユリアンが蜂に刺されたわ」
「え? どこを?」
「それがさ、ここなんだけど」
むすっとした顔でテントに入ってきたユリアンは、膨らんできた額を示す。前髪を掻き分けるように、存在を主張する痕は痛そうだった。
「どうして額なんて……」
「痛むだろうが傷を開くか?」
「い、いいです。このままで」
傷の先端を軽く切り、毒を出す方法がある。この世界では一般的な治療方法だけれど、ユリアンは顔を引き攣らせた。嫌だと拒むけれど、二日後には迎えが来るのよ? その顔で行くのかしら。
「っ、やっぱり……お願いします」
先を炙って消毒した刃でさっと切開して搾り出す。ユリアンにとっては、搾る作業が痛かったようで。大きな悲鳴をあげた。驚いたレオンが私の後ろに隠れ、ローズも大泣きする。マーサが抱き上げて遠ざけたので、ローズの泣き声は徐々に落ち着いた。
「ゆん……いたいたいの?」
「ええ、痛いけれど治すためなのよ」
レオンはこのあと、私のスカートを掴んで離さなかった。少し早いけれど、帰った方がよさそうね。侍従がテントを片づけ、騎士の護衛で歩き出す。歩きながら事情を聞いたら、ユリアーナが花冠を作ろうとしたことが原因だった。
花を摘んでは編んでいく作業の中、たまたま摘んだ花に蜂が飛んできた。ユリアーナは気づいておらず、追い払おうとしたユリアンが襲われたそうよ。安易に手で払ったのではなくて? ふふっ、でもお兄ちゃんとして妹を守ったのは偉いわ。
褒められて得意満面のユリアンだけど、額の腫れは……明後日まで残りそうね。