作品タイトル不明
549.湿っぽさを吹き飛ばすピクニック
見送る立場になったのは、初めてかしら。お母様の葬儀は別よ。双子は私の結婚に続いて二度目だから、余計に可哀想だった。成長すれば、いずれは巣立っていく。それが早く来ただけのこと。
お父様は不義理をした領地の発展を願い、エルヴィンも領地運営を学ぶ。どちらも大切なことだった。私はこの年齢なら嫁いで当たり前で……でも、双子には早すぎる別れね。もっと長く、家族と過ごせたら良かったのだけれど。
ユリアンは自らの道を選んだ。以前口にした「マルレーネ様との共演」も、演奏家になって叶えると笑う。もっと上手になって、マルレーネ様に望まれるくらいの演奏をしてみせる。そう言って照れた。ユリアンの強さは、双子のユリアーナにも備わっているわ。
ティール侯爵家が持つ二つ目の爵位であるキューネ子爵を継ぐ、とオイゲンは決めた。以前は反対したご両親も応援しているみたい。騎士になったらすぐ子爵を継ぎ、ユリアーナを子爵夫人にすると意気込んでいた。恋愛は人を変えるというけれど、本当ね。今日は迎えの馬車で素直に帰って行った。
湿っぽいのは一日で終わり。切り替えた翌日は、公爵家の林でピクニックをした。以前にレオンが教えてくれた湖がある場所よ。丁寧に整えられた散歩道を抜けて、広がる景色に頬を緩めた。
「これは見事だな。この季節は紫の花が咲くのか」
藤に似た枝垂る花が連なり、湖の水に反射した。視界が薄紫に染まっていくよう。ヘンリック様は驚いた声を上げる。どうやら屋敷の敷地内に詳しくないみたい。ずっと頑張ってこられたんだもの。こういう季節のご褒美は、楽しまなくちゃ。
「綺麗ね! すごいわ」
手を叩いて喜ぶユリアーナの隣には、荷物を担いだユリアンがあんぐりと口を開けていた。
「こりゃすげぇ……じゃなくて、凄いな。こないだ習った曲がぴったりだ」
ピアノがないのが惜しい。ぼやきながら、荷物を芝生の上に置いた。湖の水に触れて、冷たいとはしゃぐ。すぐにユリアーナも駆けつけ、一緒になって手を水に浸した。
「ぼくも!」
「なら、俺を連れて行ってくれ」
一緒に行こうと過保護な言葉をかけると、機嫌が悪くなるのよね。イヤイヤ期は、あまり激しくないので助かっている。それでも子供扱いは、激しく抵抗した。ヘンリック様は私の言動を参考に、レオンに頼む形を取る。お陰で、素直に案内してくれるわ。
「いいよ」
ヘンリック様と手を繋ぎ、一歩先を歩く。ゆっくり着いていくヘンリック様を見送った。レオンはお兄さんぶった口調で「ちゅめたい、から」と教えている。真面目くさった顔のヘンリック様が「わかった。助かる」と返した。
ふふっ、あの二人のやり取りが面白くて笑ってしまう。今日はローズも一緒だった。マーサやリリーも同行し、ベルントはテントを張るよう指示を出す。同行した護衛の騎士四人が動いて、休憩用のテントがさっと用意された。
あぶぅ……声を上げるローズを連れて、テント内の絨毯に座る。小さな声で歌を聴かせていたら、四人とも戻ってきたみたいね。
「やっぱりピアノが欲しい。持ち歩けるピアノ、ないかなぁ」
伴奏をつけられたのに。溜め息を吐くユリアンに、思わず。
「ないなら作ればいいわ」
きらっと目を輝かせた弟の姿に、失敗したと項垂れる。本当に何か作り出すかも。