作品タイトル不明
548.見送るのがこんなに辛いなんて
ユリアンは今回見送る側、ユリアーナと手を繋いでいた。隣でオイゲンが気遣わしげに、ユリアーナの肩に触れる。
お父様とエルヴィンは手荷物だけだった。すでにほとんどの荷物は送ってあるし、すぐ使わない物は数日かけて運搬される。二人と抱き合って別れを惜しみ、何かあればすぐ連絡するよう伝えた。ヘンリック様も同じ意味のことを口にしている。
「本当に、我慢しないのよ? 足りない物や困った時、必ず連絡すること……いいわね」
「ありがとう、姉上。義兄上も……お世話になりました。まだまだ迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」
エルヴィンはちゃっかりした発言のあと、ふわっと笑った。年齢以上に大人びて見えて、悲しくなる。まだ親の庇護下で守られていい年齢なのよ。でも本人が決めた道を反対したくなかった。
私の契約結婚が決まった日、エルヴィンは泣きながら抗議した。姉上が犠牲になるなら、僕が働きに出る! と。立場が逆になってしまったわ。泣きたくないので、潤んだ目を瞬いて誤魔化す。ぎりぎり持ち堪えられそう。
マーサに抱っこされたローズが、声を上げた。お父様はすぐに飛んでいって、あやし始める。レオンは私のスカートを掴んで、周囲の様子をきょろきょろと観察していた。
「では、そろそろ行くか……離れ難くなってしまうからな。ヘンリック殿、アマーリアと孫達を頼みます」
しっかり頭を下げ、お父様が馬車に乗り込んだ。続いてステップに足を置いたエルヴィンを見て、レオンはてくてくと歩み寄る。
「……どうした……っ!」
問いかけるエルヴィンに手を伸ばし、一緒に乗り込もうとしたのだ。慌てて駆け寄り、レオンを抱き上げる。ヘンリック様も驚いた顔だった。駆け寄り、私からレオンを受け取る。
「レオンは行かないんだ」
ヘンリック様の言葉に、レオンは首を傾げた。
「なんで?」
「……っ、レオンのお家はここだもの」
我慢していたのに、泣いてしまった。ぽろりと涙が溢れたタイミングで、今度はローズが泣き出す。マーサがあやすも、大声を張り上げた。涙を隠そうと馬車に背を向け、ローズを抱く。
振り返った先で、馬車の扉が閉まった。申し訳なさそうに一礼する御者が、馬に合図を送る。蹄の音が響き、馬車が進み始めた。遠ざかっていく馬車を見送るも、涙でほとんど見えなかった。いつの間にか泣き止んだローズの手が、視線の端で揺れる。
「じぃじ、えるぅ……」
ぐずってレオンが泣き、後ろで我慢していたユリアーナが「寂しいよ」と漏らした。
「っ、しょうが、ねえだろ」
涙を溜めた目で、ユリアンが鼻を啜る。今日は湿っぽい一日になるわ。