作品タイトル不明
546.幸せは連鎖して増幅するの
「どれ、私が抱いてみましょうね」
マルレーネ様は手にした扇を侍従に預け、さっと腕を伸ばす。ベッドから抱き上げた私から受け取り、慣れた様子であやし始めた。どうやら私でなくてもいいのね。
ローズは微睡み始める。誰かの温もりがいいのかしら。王太后陛下に子守りをお願いするのは申し訳ないけれど、ご本人は楽しんでいる。ならばお任せするほうがいいわ。実際、助かるんだもの。
「王太后陛下は抱き方がお上手ですわね」
ユーリア様は感心した様子。パウリーネ様も腕の形を真似して、なるほどと頷いていた。もしかして、お二人とも乳母に預けて、あまり抱かなかったの?
「ええ、お恥ずかしいことに。あの頃は社交ばかりしておりました」
「私も同じです。公爵夫人になって間もなくて、社交を優先したわね」
二人の言葉に、私も一歩間違えたら同じだったと気づく。ヘンリック様が社交を最低限に減らしてくださった。お陰で、私はレオンやローズに関わっていられる。一般的な貴族夫人の振る舞いとして考えるなら、家のための社交が優先だわ。
「……次に抱っこしたいけれど、私では不安ね」
ユーリア様が残念そうに呟くと、思わぬ人物が助け舟を出した。
「抱き方は慣れよ。こうして、ほら……首を支えてあげるの」
説明するマルレーネ様の腕から、ユーリア様へ。ローズは腕が交代した時はぐずったけれど、いまは目を開けて周囲を見ている。続いて、パウリーネ様……これまたマルレーネ様の指導で、問題なく抱っこを経験した。
「娘が幼い頃に、こうして抱いてあげればよかったわ」
「お母様、私……妹が欲しいわ」
ヴェンデルガルト様の爆弾発言に、様子を見ていたリースフェルト公爵が飲み物を噴いた。昼間なので、軽い白ワイン程度だから、酔いが原因ではなさそう。侍女が手早く拭いた服に、目立つシミはなかった。
「……諦めて頑張ろう」
リースフェルト公爵の肩をぽんと叩いたのは、バルシュミューデ公爵よ。二人で顔を見合わせ、幸せそうな妻達を見て頷きあう。公爵家二つとも、出産祝いが必要になるかしら?
「俺達はどうする?」
ヘンリック様が無邪気に尋ねるので、私は首を横に振った。乳母や侍女がいて、確かに育児は楽よ。でもまだ体が元に戻っていないの。出産は待ってほしいわ。そう伝えたら、肩を落としてしまった。距離を詰めて耳元で「閨事はお付き合いしますわ」と囁く。
恥ずかしいけれど、気落ちさせたままは可哀想よね。嬉しそうに耳と尻尾が動く……いえ、幻なのだけれど。実際に生えていても不思議じゃないくらい、表情や態度に出ていた。
「お前が幸せになってくれて、可愛い孫が二人もできて……妻に自慢できそうだ」
「あら、お母様に会うのはまだ先ですわ。もっと土産話を増やしてから迎えを待たないと、早過ぎるとお叱りを受けますわよ」
感涙するお父様の発言に、まだ早いと釘を刺す。幸せに上限があるかわからないけれど、私は欲張りなの。