作品タイトル不明
544.私の宝物を詰めた大広間
家族全員でのパーティーという形で、そこに王族や公爵家がご招待された。なんとも豪勢な感じね。さらにヘンリック様の部下である文官達が、家族と一緒に駆け付けた。大勢の人に拍手で迎えられ、さすがにやんちゃなユリアンも大人しい。
一礼してお父様がご挨拶に立った。屋敷はケンプフェルト家だけれど、主役はお父様達だもの。お祝いの声に照れながらお父様が帰ってくる。話が長すぎても迷惑だけれど、短すぎるのもどうかしら。
「奥様、失礼いたします」
リリーに声を掛けられ、私はそっと場を離れ……ようとして、レオンにスカートを掴まれた。
「おかぁしゃま?」
「ごめんなさいね、レオン。ローズを連れてくるから待っていて」
「ろじぃ!」
手を振るレオンに振り返し、さっと廊下に出る。先ほどの控え室の向かいにある部屋に飛び込めば、準備を終えたローズが待っていた。首が据わる少し前なので、あまり動かしたくないけれど。家族が集まる場に呼ばないのも、可哀想よね。
「ありがとう、マーサ達も参加して頂戴」
ローズのお守りを頼んだ侍女も、私の家族同然よ。屋敷の使用人達も交代で顔を見せてくれる約束なの。この件は、すでに参加する皆様に通知していた。誰も反対しなかったのが、本当に嬉しい。
「ローズ、皆にご挨拶しましょうね」
お披露目が急な雨で中止になったから、マルレーネ様達も楽しみにしている。王宮が近いことも手伝い、カールハインツ様やローレンツ様も駆けつけた。すごく豪華なイベントだわ。
戻った大広間には、私の大切な宝物が詰まっている。夫、息子や娘、お父様や弟妹……そして大切なお友達。
「おかぁしゃま、こっち」
いつもより流暢に話すレオンは、いつの間にかランドルフ様と手を繋いでいる。オイゲンはユリアーナと腕を組み、ユリアンに冷やかされていた。エルヴィンもローレンツ様達にご挨拶しているみたい。ヘンリック様は、そそくさと私の隣に立った。
「いえいえ、いつも子供達に助けられてばかりです」
ユーリア様に謙遜するお父様は、パウリーネ様にも何か言葉をかけられている。素敵な光景だわ。抱いたローズは、大きな声に驚いた様子で目を見開くも、泣くことはなかった。代わりに、手の指がきゅっとスカーフを掴む。ああ、そうだったわ。忘れるところだった。
「ユリアーナ、お願い」
「いま行くわ」
足早に近づいたユリアーナは、スカートの裾を綺麗に捌く。淑女教育の成果が出ていた。手にした小さなポーチから、青いハンカチを取り出す。ガーゼは柔らかくて刺繍しづらかったのではないかしら。赤ちゃんがしゃぶっても平気なよう、ガーゼを選んでくれたの。
刺繍は小さめに、ローズの名前を入れてもらった。おまけで薔薇の蕾も刺してくれたのね。お礼を言って、ローズの襟に角を差し込む。四角の一片を差し込めば、胸の上のガーゼを小さな手が握った。
「気に入ってくれてよかった」
笑うユリアーナは、ヴェンデルガルト様に呼ばれて踵を返した。
「あら、可愛い。ローザリンデちゃんだったわね」
ゆったりと歩み寄ったマルレーネ様の声に、人々の注目が集まった。