作品タイトル不明
537.大きくなったけれど子供ね
午後も温室で過ごすほど気に入ったわ。途中で、庭師達が窓を閉めにきた。夜の冷えた空気に晒されると、花が散ったり木が枯れたりするそうよ。暖かい地方の木々を、この温室に植えたんですって。
普段見られない花を植え、蝶や鳥を放す温室が多い。ここにも鳥を放してみてはどうか、と提案があった。
「うちは猫がいるもの」
すでに動物はいる。それなら一夏の蝶だったら構わないだろう。お父様の一言で、蝶に決まった。生き物は責任を持って飼うのがルールで、庭師達は花のためにも蝶や蜂を歓迎した。世話もしてくれるらしい。
フランクの手配で、侍従や下男が家具を運び込んだ。事前に準備はしていたの。ただ、タイミングが難しくて。用意されたソファーに飛び乗り、レオンは大喜びだった。隣を叩いて、エルヴィンを呼ぶ。
「えるぅ、ここ!」
素直に座るエルヴィンに満足しているけれど、お父様が寂しそうね。
「じぃじは、呼んでもらえないのか?」
お父様は自分から強請った。きょとんとした顔でレオンは、「こっち」と反対を叩く。座って囲まれて、満足した幼子は気づいた。
「おかぁしゃま、も」
もう座るところはないけれど、そう言ったら泣いちゃゃいそう。レオンから見える位置に腰掛けた。
「今日の私は、ユリアンやユリアーナ優先よ。レオンもお父様やエルヴィンと仲良くしてね」
「んん、やっ」
「見える場所にいるわ。こっちに来る?」
「やっ」
あらあら、イヤイヤ期が復活かしら。一度収まったレオンの「やっ」が再開した。なぜか皆が笑顔になって、レオンはさらに頬を膨らませる。もう突いたら割れそうよ。
「おやつ食べて落ち着きましょう。お昼寝もしないとね」
「やっ」
こんなに可愛いイヤイヤがあるなんて、と笑ってしまった。怒らせちゃったかしら? レオンはじっと見つめた後、にこっと笑顔になる。こういうところ、素直で素敵。
「もう寝ましょうね。皆もここでお昼寝するわ」
「ほんと?」
「ええ、本当よ」
念押しするまでもなく、皆で頷く。侍従達が運んで組み立てた大きなベッドの端に、並んで座った。せーの! 掛け声と同時に後ろに寝転がる。足は床についていて、膝から下はベッドに乗っていない。
だらしない寝姿だけれど、許してほしいわ。こういう「悪いこと」は、後で思い出す楽しい記憶になるから。この子達がもっと小さかった頃が思い出される。夏の暑い日に、こうやって並んでお昼寝させたっけ。
こっそり抜け出して洗濯をしていたら、泣きながらユリアンが追いかけてきて。ユリアーナも起きちゃったのよ。今は大きくなった左右の二人を、ぎゅっと引き寄せた。
「お姉様?」
「リア姉、恥ずかしいって」
じたばたする双子を堪能してから、腕を緩めた。
「大きくなったわ。あの頃と全然違う」
「ぼくも!」
感慨に浸る間もなく、僕も抱っこ! とレオンが飛びついた。便乗したエルヴィンが、そっとユリアーナと入れ替わったりして。最後に拗ねたお父様が合流する。汗をかきながら団子になってお昼寝時間を過ごした。
これもきっと、大切な思い出になるわ。