作品タイトル不明
533.慌ただしく決まっていく
お父様達が引っ越す日から三日後、ユリアンがアウラー様に弟子入りする。ザイフリードという家名は、隣国の侯爵家だった。なんでも嫡男なのに、弟に家督を譲って家を出た変わり者らしいわ。それ以降、母君のご実家のアウラーを名乗っているのだとか。
お父様と一緒にご挨拶を受けた時に、教えていただいたの。母親代わりをするのは、これで最後になるかしら。そう思うと寂しいわ。ついぼやいてしまったら、アウラー様は意外なことを仰った。
「母親は死ぬまで、いえ……それ以降も母親役をさせられますよ。あなた様も姉役に戻っていいのでは?」
我が家の事情は、ユリアンから聞いたのね。ヘンリック様も親しいようだから、もしかしたら話したのかも。寄り添うように口にされた言葉は、すんなりと胸に入った。私はあくまでも姉であり、母親は亡くなったお母様だけ。
ユリアンは、いつになく緊張した面持ちだった。お父様が許可を出した途端、ほっとした顔になる。巣立つには早いけれど、きちんとした後見人がいるから大丈夫ね。
残ったユリアーナは、離れで一人にするわけにいかない。当然、母屋である本邸に引っ越してもらうわ。二階の部屋がいいと言い出し、空いている部屋をいくつか提示した。どの部屋も日当たりはいい。迷ったあと、一番狭い部屋を選んだ。
レオンが昼寝をしている間に、と大急ぎで二階に上がったの。
「ここでいいの?」
「ええ。ここは門から入ってくる馬車が見えるし……他の部屋は広すぎるわ」
しばらくは寂しいでしょうね。一人部屋は離れと同じでも、隣の部屋に双子の兄がいない。寂しかったり怖かったりしたら、私のところへ来るよう話した。お義兄様に悪いから、いい? 子供がへんな遠慮をしないのよ。
「本当は、お父様達と領地に行くべきなのよね。淑女教育を理由にしたけれど、婚約者のオイゲンと離れるのが嫌なの」
「知っているわ。それでいいじゃない」
「お姉様は否定すると思った」
「あなたが決めたことよ、ユリアーナ。それを叶えられる環境があるなら、応援するわ」
ユリアンを送り出すのと同じ。環境や状況がそれを許すなら、自分の気持ちを我慢する必要はないの。ダメなことはダメだと止めるけれど、今回は全く問題ないわ。
「ありがとう」
ユリアーナは嬉しそうに笑った。まだ九歳なのに、大人びたことを考えるのね。笑って肩を竦めたら、私の影響だと返された。ずっと母親の代わりをして、大人と対等に話をする姿を見て、憧れたと。
嫌だわ、照れちゃうじゃない。
「そろそろ、レオンが起きるわね」
あたふたとその場を離れた。階下に降りれば、まだレオンは眠っている。寝室へ入り、寝息を立てるレオンの黒髪を撫でた。できるなら、あなたはもっとゆっくり成長してね? 早い巣立ちは寂しいわ。