作品タイトル不明
532.巣立ちの準備を
家族でお別れ会を開きましょう。提案したのは、ユリアーナよ。自分は公爵家に残るから、離れ離れになる父や兄を見送る形が必要なのね。ヘンリック様が同意し、レオンも楽しみにしている。
この話は思わぬところへ漏れてしまった。ヘンリック様が自慢げに、家族の話をしたそうよ。ベルントの説明では、文官達と盛り上がった話のついでだったみたい。それが、書類を置きにきたカールハインツ様の耳に入った。当然、母君であるマルレーネ様に流れ、そこからユーリア様、パウリーネ様まで。
情報は驚くべき速度で伝達され、次の日にはパウリーネ様に到達していた。何か魔法や通信機器の開発でもあったのでは? と疑うほどよ。早馬を飛ばしまくったのかしら。同じ王都内であっても、早すぎるわ。
「奥様、こちらの手紙は……バルシュミューデ公爵夫人ですね。それからリースフェルト公爵夫人からも届いております」
受け取って開けば、内容はほぼ一緒だった。招待状が欲しい、誤解も勘違いも生じようのない、真っ直ぐな文面ね。
「招待状を作ってくれるかしら」
「承知いたしました」
文面はほとんどが、専門の職人の手で書かれる。描くと表現できるほど、とても美しい飾り文字で記すのよ。最後に直筆で一文添えれば終わり。家紋の入った封蝋を使うので、署名は不要だった。
日時と場所を指定すれば、あとは書いてもらえるのだけれど。予定日は明日の朝までに決めましょう。皆の都合を夕食で確認するわ。
「ぼく、でる」
「……トイレ?」
「ちあう! ぼくも、いっちょ」
「ごめんなさいね。お別れ会なら、もちろんレオンも参加してもらうわ。招待状を作るわね」
これは私の手で書いたらいいわね。猫達の絵も加えましょう。肉球のマークで封蝋を作ったら可愛いかも。でも封蝋のスタンプは製作に時間がかかる。少し考えて、お芋のハンコを思い出した。
封蝋でなくてもいいわよね。フランクに相談したら、思わぬアイディアが! ハンスに柔らかな木を切り出してもらい、削って作るの。お芋と違って、長く使えるわ。切り出すのも、ハンスが手伝うそうよ。私やレオンが手を切ると困るから、と。
とても助かる。レオンと二人で、スタンプ用の絵を描いた。文字は削りにくいだろうから、あくまでも絵だけ。文字は書き添えればいいわ。絨毯の部屋では描きづらいので、勉強部屋に移動した。
ふと……棚の一部が空いていることに気づく。お父様所有の本が並んでいた一角だ。近づいて、綺麗に拭かれた棚板を撫でた。ぽっかりと穴の空いた状態は、心の空白みたい。
「寂しくなっちゃうわね」
今度こそ、親から巣立つ時なのね。