軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

525.いずれ輝く未来に

綺麗な旋律が流れる。曲は知らないけれど、切なく響いた。濁りのない音がふっと止まる。無言で聞いていたヘンリック様は頷き、壁際に控えるフランクやピアノ教師達も微笑んだ。

「見事だ。よし、アイツを紹介しよう」

「やった! ありがとうございます」

ユリアンは心底嬉しそうに笑い、ぴょんと跳ねてから頭を下げた。あの切ない音を紡いだピアニストとは思えないわ。やんちゃな子供に戻っていく。まだ九歳だものね。

ヘンリック様がユリアンに厳しい練習を課したのは、覚悟を見定めるためだった。昨夜聞いたのよ。プロになるには、ユリアンがピアノを始めた年齢が遅い。これから努力するにしても、四、五歳から訓練した子と競うことになるの。

ハンデだった時期を嘆いても仕方ないから、それを跳ね返すほどの努力が出来るかどうか。重要なのは覚悟と真剣さ、ピアノへの想いらしい。ずっと「アイツ」と呼んでいる人は、プロなのでしょう。

「ザイフリート、どうだ?」

「うん、僕はいいと思うよ」

教師の中の一人に、ヘンリック様は呼びかけた。拍手していた青年が進み出て、私に会釈する。すでに紛れていたのね。練習態度が見られるし、技術や音も確認できる。一石二鳥だわ。さすがヘンリック様!

私より年上だけれど、もしかしたらヘンリック様より若いかしら? そう思ったら、同じ歳だと言われた。口に出さなくてよかったわ。傷つけちゃうところだった。

「その家名は嫌いなんだ。モーリッツ・アウラーと呼んでくれと言っただろ?」

「わかった、アウラー」

「そこはモーリッツと呼ぶ場面じゃないか? 君のそういう堅いところ、結婚しても直らないなんて」

ぶつぶつと文句を言う彼の名は、音楽に疎い私でも聞いたことがある。周辺国で引っ張りだこの演奏家だった。前にチラシを見たことがあるの。ピアノの絵と大きな白い鳩、モーリッツ・アウラーの名前。びっくりするくらい高額のチケットだった。

あの演奏家が、目の前にいてユリアンの指導を? 驚いたのは私以上にユリアン自身で。固まって目を見開いたまま、ユリアーナが話しかけても動かない。

「ユリアン、君の演奏も音も素敵だけれど、もっと磨いたら光るはずだ」

さらりと褒めながら釘を刺す。練習しなければ今のレベルで止まる、と。

「アウラー様……ユリアンをお願いします」

「ご安心ください、夫人。僕が責任持って預かります」

ん? え? 預かる??

こてりと首を傾げた私の様子に、ひそひそとヘンリック様に話しかける。漏れ聞こえたのは、ちゃんと説明したのか? と叱る声だった。合格したら話すつもりだったと返すヘンリック様の声は、バツが悪そう。

お父様やエルヴィンが巣立つタイミングで、まさかユリアンまで?