作品タイトル不明
523.用意したけれど雨天中止
マルレーネ様、ルイーゼ様だけなのね。カールハインツ様は国王としての会議があって、ヘンリック様も出席予定だった。騎士団の遠征訓練に同行するローレンツ様も、欠席ね。あら、こういう場合に欠席って使うのかしら。
うちもお父様やエルヴィンがいないし、ユリアンもピアノレッスンの佳境に入るから、ユリアーナに参加の有無を聞いておかなくちゃね。
ローザリンデの顔を見たいと書いてあったので、目的はこれでしょう。お茶の支度を頼んで、やや広い客間へ分厚い絨毯の手配をした。手紙に人数や参加者が書いてあれば、準備がしやすくていいわね。
「レオン、ルイーゼ様が来るわ。何をして遊びたい?」
「ん、とね……おんしつ。おしゃんぽ」
手を繋いでお散歩したい。可愛らしい要望に、庭師のハンスを訪ねた。彼によれば、温室の手入れは半分ほど終わっている。残った半分は裏側の樹木エリアだった。手配した果樹がまだ届いていない。
表だけで遊ぶことを条件に、温室を使う許可を得た。奥へ行けないよう、衝立てで塞ぐ。ユリアーナは参加すると返事があった。お母様の形見のワンピースで参加するの。よほど気に入ったのね。あの子はお母様を覚えていないから、触れられる形見が嬉しいのだと思う。
ローザリンデを休ませる簡易ベッドも用意した当日……まさかの大雨だった。屋外でのお茶会を準備しなくてよかったわ。でも来られるのかしら。大量に降れば、王宮に留まるはずよ。昨年の台風の記憶は、まだ記憶に新しかった。
緊急時に、為政者である王太后陛下の外出はまずいでしょう。ヤキモキしていたら、使者が馬を飛ばしてきた。やはり今回は見送るらしい。
「レオン、ルイーゼ様は出かけられなくなったの。また今度よ。この雨では無理だったの」
「やだぁ!」
大声で泣き始めたレオンに、なんだか嬉しくなった。意思表示をしてくれる。私に怒られる心配をしないで、感情を解放している。それが本当に幸せだった。
「残念ね。今度はレオンが、お父様と王宮へ出かけましょうか」
「……やだ」
あらあら、もしかしたらイヤイヤ期? 理由を尋ねたら、ローズや私が一緒ではないから。まだローズを連れての馬車は無理だわ。
「ローズが大きくなるまで、お出かけは我慢する?」
「それもやだ」
うふふ、本格的にイヤイヤ期の可能性が出てきたわ。ぎゅっと抱きしめても「やだ」と言わない。ぐずぐずと文句を並べるレオンに頷きながら、雨の音に耳を澄ます。こんな日があってもいいわ。
どんなに我が侭を言って、反抗したってレオンは可愛い。用意したお菓子がもったいないから、フランク達を誘って温室でお茶にしようかしら。
イルゼ、リリー、マーサ、ローズと乳母も。そうそう、ハンスも誘ってみましょう。きっと楽しいわ。