作品タイトル不明
520.理解できてもできなくても嫌
「じぃじ、ないない?」
「違うのよ。お家に帰るの」
「あっち!」
「そのお家じゃないの」
どう説明したらいいかしら。お父様とエルヴィンが領地に帰る話をしたら、レオンは理解できなかった。いなくなると説明するのは違うし、お家と表現すれば離れを思い浮かべる。複雑すぎて、どう説明したらいいのか。
いなくなる。遠くに行く。レオンはこの感覚が理解できないのね。私が来るまで三年弱、ほとんど一人でいたため、経験が足りないのよね。レオンが経験した中で、いい例えがないかしら。
話が終わったと思ったのか、レオンは私に飛びついた。屈んで受け止め、頬をくっつける。ふと目に入ったのは、レオンの袖のカフスだった。以前に療養で別邸へ行った際、街で見つけたのよね。
鍛冶屋の跡取り娘カルラは、窯を使ってガラス細工を始めた。いまでは領地の経営を支えるほど成長している。窯を増やし、いくつもの工房が営業していた。ドレス用のガラスビーズを作る工房も……。
「レオン、じぃじとエルは旅行に行くの」
いい表現を見つけたわ! 旅行よ、あの別邸で過ごしたことを思い出してもらえば理解しやすいわ。少し体を離して、絨毯の上に座った。
「りょこ?」
「温泉がある別邸に遊びに行ったでしょう? 一月も遊んだわ」
「うん」
レオンはすぐに思い出したみたい。また遊びに行くのかと目を輝かせる。
「じぃじとエルは、お母様の住んでいたお家に旅行するの。長くいて、時々帰ってくるわ」
「……やだ」
ぷくっと頬が膨らんだ。横を向いて不満を表明する。覗き込もうとすると、反対へ顔を動かした。目を合わせて説得されないよう、抵抗する気ね。
「レオン、二人はお仕事に行くの。毎日お父様も出かけるけれど、帰ってくるでしょう? いってらっしゃいとお見送りできないかしら」
「じぃじ、かえう? えるも」
夜になって帰ってくるならいい。尖った唇が、幼い感情を伝えてきた。すごく悪いことをしている気分だわ。
レオンにとって、家族は宝物なのね。増えていくばかりだったのに、突然減るなんて。想像もしていなかったでしょう。いずれユリアーナもお嫁にいくし、ユリアンも独立する。その度に別れを体験し、感情を育てていくのね。
「夜は帰ってこないわね」
答えたら頬の膨らみが大きくなった。突いたら割れちゃいそうよ。
「……お母様とお父様はずっと一緒よ。ローズもそうね。レオンはそれじゃ足りないかしら」
「……やだ、もん」
泣きそうな顔になるレオンを膝の上に座らせて、視線の高さを合わせる。こつんと額をくっつけて、レオンの目を覗き込んだ。美しい紫の瞳が潤んでいる。
「じぃじもエルも、レオンがお願いしたら帰ってきてくれるわ。二人が頑張るのを応援しましょうね」
最後まで了承はなかった。不満だけど、これ以上は言わない。それも一つの選択ね。