軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

518.お父様も葛藤していたのね

エルヴィンの勉強を見ていたお父様が顔を出したのは、レオンのお昼寝の間だった。最近は双子が手を離れたので、時間に余裕が出てきたと思う。

ユリアーナは淑女教育の専門家を呼んだし、ユリアンもピアノの専門教師が六人もいる。お父様の一般教養を履修した双子は、それぞれに目指す未来へ歩き出したんだもの。寂しくても手を離して見守る時期よね。

エルヴィンにも領地運営の専門家をつけるべき? 王都から近いので領地へよく顔を出して、管理人と話していると聞く。ケンプフェルト公爵家が雇った管理人は、優秀でしょうね。その方に教師をお願いしようかしら。

「私は騙されて奪われ、情けない父親だった。リアを含め、あの子達にも苦労ばかりかけた」

こういう時、優しい言葉をかけてあげる人がいるでしょう? すごく素敵だけれど、私には無理だわ。大変だったあの頃を、無かったことにはできない。何より、親族の横暴な税徴収で苦労した民を、忘れられないの。

他領の倍近い税を払わされていた。それでも領主の権限を失ったお父様は、何もできなかったの。もちろん、私も同じよ。何とかしてほしいと頼る民に、ごめんなさいと頭を下げるだけの日々だった。

「ええ、本当ね。お父様は領主失格でした。民を苦しめる親族に領地の権利を奪われ、私達家族の生活も成り立たなかったわ」

肩を落として、椅子に埋もれる姿は哀れだった。

「でもね……そんな人だから私達はまっすぐに育ったの。明らかに詐欺とわかる嘘泣きの人がいても、お父様は持っているパンをすべて与えてしまう。私達がお腹を空かせていても、与えるでしょうね」

否定できないお父様が呻くように「すまない」と頭を下げた。

「悪いことだと反省している? でも、お父様はそれでいいと思うの。騙す側に回れない、善良で無能な人で良かった。領主失格でも父親としては合格、そうでしょう?」

顔を上げたお父様に、微笑んで続けた。

「私を含め、四人の子をここまで育てたのはお父様よ。誇って頂戴」

「だが」

お父様の前に、手のひらを立てる。失礼な所作だけれど、今は許してほしいわ。

「お父様、私はもう一度生まれ変わっても……お父様の子がいいの」

苦労すると知っていても、大変な思いをしても。お父様の子であることを選ぶわ。涙を堪えきれず、お父様は顔をくしゃくしゃにして俯いた。膝の上で握った拳に、ぽつりと涙が落ちる。

ふと身じろぎしたレオンが顔をあげ、ぼんやりした表情でお父様を見つめた。

「じぃじ、ないちぇゆ? おとちゃまも、かんだ、の」

「しぃ。その話は終わりよ」

起きている時は口にしないのに、寝ぼけているとあらぬことを口走る。危険だわ。もう忘れていいと言い聞かせるも、レオンはぱちりと目を開いた。

完全に目が覚めたのね。ベッドを滑り降り、お父様の顔を下から覗いた。

「おかぁしゃま、じぃじ、ないてゆ。どっか、いたいたい?」

「嬉しくても泣いちゃうのよ。前にお話ししたでしょう?」

思い出したのか、レオンは素直に頷いた。