作品タイトル不明
515.持て余す感情が溢れる
ぐずるレオンは、唇を尖らせて不満顔だった。
「やっ!」
何を言っても拒絶する。私は可愛いわねと笑っていられるが、ヘンリック様は少し苛立っていた。
「ヘンリック様、落ち着いてくださいね」
「ああ、わかっている」
言葉は柔らかいのに、腕を組んで……ヘンリック様も子供みたいだわ。
「レオン、何が嫌なのか。お母様に教えてくれる?」
「やだぁ!」
子供特有の甲高い声で叫ぶ。喉を痛めそうだわ。引き寄せてぎゅっと抱きしめた。膝の上に座らせ、向かい合わせで密着する。ぐずぐずと小声で何か文句を言っている? でも聞こえないから気にしない。背中をぽんぽんとリズムカルに叩き、落ち着くのを待った。
「……子供はいつもこうなのか?」
「しぃ、ヘンリック様。隣の部屋で待ってください」
頭の上で話をすると、また拗ねてしまう。やっと落ち着いてきたのよ。ヘンリック様は大人だから我慢できますね? 順番だと言い聞かせて、隣の書斎に移ってもらった。
ベルントの声が聞こえるから、扉の開閉音で気づいたのかしら。少しの間任せてしまいましょう。後できちんと説明すればいいわ。
へばりついて離れないレオンは、背中に回した手で服を握っている。必死なのは伝わってきた。
「お母様はレオンが大好きよ。レオンはどうかしら」
嫌しか言わないなら、そう答えられない質問をすればいいわ。ベッドの上で体を揺らす。レオンは一緒に揺れることで、徐々に落ち着いてきた。この頃体重も増えたから、以前のように抱き上げて揺らすのは難しいのよ。
ゆらゆらと左右に動かす私の体に、レオンが合わせ始めた。突っ張るのをやめて、素直に揺れる。背中を叩く手の動きを遅くして、代わりにもっと引き寄せた。
「レオン、お母様のこと、もう嫌い?」
「んん」
違うと意思表示する。でもはっきり答えないのは、自分でも困惑しているのかも。感情を整理できなくて、どうしていいかわからない。
「じゃあ、まだ好き?」
「うん」
答えられる質問に変更した。
「そう、お母様も大好きよ。嬉しいわ」
こくんと頭が縦に揺れた。これだけ密着していると、動きが全て筒抜けだわ。
「お父様がいたから嫌だったの?」
「んん」
これは違うみたい。遡って今日の出来事を確認したところ、不機嫌の理由が判明した。
「ろじぃ、じゅるい」
「レオンも一緒だったのよ」
自分が昼寝をしている間に入り込んで、お母様を奪ったと感じたみたい。イルゼの懸念通りだった。まだまだ愛情が足りていない。一人の時間はそれだけレオンを傷つけたのだわ。
「こうしましょうか。ローズに会う時は、必ずレオンが起きている時間にするわ。それなら狡くないでしょう?」
「……うん」
小さな騎士様は納得してくれた。これって私を取られたのも気に入らないけれど、自分がローズと過ごせなかったのも嫌なのね。だから歯切れが悪かったんだわ。
レオンを寝かせて、大きな旦那様のご機嫌も直さないといけないと。ふふっ、忙しいわね。