作品タイトル不明
513.私はレオンのお母様よ
エルヴィンとオイゲンは二人で王宮へ向かった。心配だと口にしたら、ヘンリック様が肩をすくめる。
「あの二人は己の領分を弁えている。失敗はしないだろう」
そう言い切った後「何かあれば俺がフォローする」と付け足した。はっとした顔になり、おろおろして……ベルントを呼びつけた。何か命じると、大急ぎで部屋に戻る。見送った私は、レオンとゆっくり歩いて戻った。
「王宮へ行ってくる」
文官達が手放しで喜びそうね。任せろと請け負った手前、近くにいないとまずいと思ったみたい。
「頼りになりますね。さすがです、ヘンリック様」
褒めてやる気を引き出し、そのまま送り出した。書類を積んだ馬車を従え、二台体制で出掛けていく。もう一度玄関へ来たことが不思議なようで、レオンは「なんで?」を繰り返した。
「どちて、もかい?」
「さっきオイゲンやエルヴィンが出かけたでしょう? 今度はお父様が出かけたの」
「なんで?」
「お仕事を思い出したのよ」
「どちて? ここ、にゃのに」
お家がここなのに、なぜ出かけていくのか。いい質問だわ。ここで面倒だからと投げてしまったら、いざという時に頼らなくなる。でも、なんて答えたらいいかしら。
「お仕事は……ルイーゼ様のお城でするの」
「ぼくも、おちごろ」
落ち、ごろ? ああ、お仕事ね。数回繰り返して理解し、笑顔でまだ早いと教えた。お仕事は大人のやることで、レオンはまだ勉強前なのよ。ふーんと納得していない返事をされるが、我慢してね。
出産前と同じように私が一緒にいるので、レオンの赤ちゃん返りはなかった。甘えが強くなった気もするけど、気になるほどではない。屈んで黒髪をかき上げ、額にキスをする。同時に「愛しているわ、レオン。あなたのことが大好きよ」と伝えた。
言葉を変えながら何度も、レオンはその度に笑顔になる。下の子が生まれると掛かり切りになり、母親を奪われたと嫉妬するわ。でも人手が足りているから、上の子を優先できた。恵まれているわね。
午前中はレオンのしたいことや勉強名目の積み木などに付き合い、午後のお昼寝の時間にローザリンデと過ごした。意外だったのが、レオンは赤子の泣き声を気にしないこと。抱っこしていて泣いても、まったく起きないの。
大物の証とイルゼは笑い、フランクは素直に驚いた。この時間にお乳をあげたり、抱きしめたり、ローザリンデとスキンシップを深める。乳母の世話が合っているようで、すくすくと育っていた。
「そろそろ一緒でもいいかしら」
「若様を優先なさってください。まだまだ足りないと思います」
首を横に振るイルゼによれば、記憶にはっきり残っていなくても、レオンは不安を抱えている。母親がいなかった頃の、漠然とした恐怖や不安は消えないだろう、と。
「いつもありがとう。その意見でどれだけ助かっているか」
「いえ、私どもこそ。こうして若様達のお世話をさせていただくことが、幸せでございますので」
そんな会話をしている間に、ローザリンデが眠ってしまった。起こさないよう抱いたまま過ごし、目を覚ましたレオンが唇を尖らせる。あら、本当にまだダメみたい。乳母にローザリンデを渡し、レオンを強く抱きしめた。
「心配しないで、私はレオンのお母様よ」