作品タイトル不明
511.甘くなくて厳しい道らしいわ
オイゲンは三日の滞在で実家に戻った。というのも、正式に婚約したいそうよ。ユリアーナも嬉しいと喜んでいるため、お父様は許したらしい。
オイゲンを誘って王宮に顔を出す返答をしたエルヴィンは、ここ数日読書ばかりしている。なんでも領地に新しい橋を造りたいんですって。お金に余裕ができたので、領民へ還元するのはいいことね。
野菜を売りにいく町まで遠回りせずに済むよう、現存する橋より上流に造る計画を立てていた。さらに簡易的なものだけれど、ダムに似た水溜め機能も考えているみたい。未来の領主としての道を着々と歩んでいるわね。
「あのさ、リア姉様。俺……ピアノで食ってく方法を知りたいんだ。ビアンカ先生達に話を聞けないかな」
一緒にお茶を飲んでいたヘンリック様が、静かに身を起こした。それから落ち着いた声で口を挟む。珍しいわ。
「音楽で食べていくのは難しい、それでもか?」
「うん、貧乏は慣れているし……エル兄様みたいに、好きなことをやりたいんだよ」
肉屋の息子を殴って泣かせ、謝りに行った日を思い出す。パン屋の前でよその子と喧嘩して、勝ち誇るユリアンの頭に拳骨したこともあった。ガキ大将で粗暴だったのに、しっかりした顔でヘンリック様に説明している。不思議な感じがした。
「最高の教師をつけて一ヶ月、練習してみろ。その結果次第だが、プロを紹介してやる」
思いがけない発言に、ユリアンは大喜びだった。練習すると息巻いて出ていく。ピアノを離れに運ばせた方がいいかしら。でも離れの防音は良くないでしょうし、こちらで弾くように伝えましょう。
「甘くありませんか?」
「そうか? 結果次第だ。もしアイツの興味を引けない腕なら、終わりだからな」
アイツ、ヘンリック様がそう表現した方は、プロの演奏者でした。王宮でも曲を披露したり、夜会に呼ばれて弾いたりするほどの人気者です。歌劇などで生演奏も行うとか。観に行かない私は知りませんが、有名な方だそうです。
「楽をして弟子入りしたら、後が大変だわ」
「顔見知りの紹介程度で、音への評価を狂わす奴ではない。音楽に妥協しないから、逆に苦労する道だと思うが……まあ、知名度や腕はある」
「ぼくも! ぼくも、やる」
「レオンは、そうね……演奏会をして聞いてもらうのはどう? 使用人も楽器を弾く人が多かったわ。ヘンリック様も、私も練習しましょう」
仕事の合間の息抜きで、楽器を弾くことを提案した。最初は渋っていたけれど、最後は一緒にと頷く。冷たそうに見えて、本当に甘くて優しい人だわ。大好きよ、伝えるために頬へキスをした。
「おか、しゃま! ぼくも!!」
小さな騎士様にも、愛しているのキスを額にしましょうね。