作品タイトル不明
506.義務がなくて安心したわ
ヘンリック様は他にも同じような事例がないか、調べると言い出した。お金にまつわる話は聞いたけれど、それ以外のほとんどは家令フランクに丸投げだと思う。帳簿の確認と付け方は教えてもらった。
社交は最低限に、今のままがいいわ。公爵夫人として失格なら、正すけれど。話を聞いて、ヘンリック様は首を横に振った。
「いや、君が気にしないなら構わない。ケンプフェルト家が気を遣うのは、王家と公爵家だけだ。それ以外は無視してもいい」
以前のお茶会のように、私が楽しめるなら社交もありだと言う。疲れたり嫌になったりするなら、呼ばれるだけで問題ないんですって。これは筆頭公爵家だからではなく、下位の家に対しての義務がないからよ。
繋がりのある家や仲良くしたい家と交友を深めるのは当然で、我々の側から謙って応じる相手は少ない。同等の公爵家が二つと、上位の王家だけなの。説明を受けて納得し、社交の義務がないことに安堵した。
企画して考えるのは楽しいけれど、今はそんな時間も体力もないわ。気力だって足りなかった。子供達が大きくなって、もっとお友達を増やす時期になれば……改めて考えればいい。
「忘れているようだが、アマーリアもフォンの称号を持つ伯爵家の一人だぞ」
「あら、本当に。そうね」
貧乏過ぎて、社交の余裕はなかった。もし呼ばれても断るしかない。だって服も装飾品もなかったから。お母様の形見だって半分ほど手放したほどよ。その状況で見栄を張ることなく、平民同然に暮らした。
あの時間があるから、今の私がいる。けれど……裕福だったら、と考えたことは一度や二度じゃないわ。我慢したり諦めたりしたことも多いの。途中からでも、弟妹が好きなことに夢中になれるのは嬉しい。
「おかぁしゃま、ぼく……いもぉと、いく」
「ロジーじゃなかったの?」
「おーず!」
ヘンリック様を見ながら、口を大きく開けて発音する。惜しいわ、ローズよね。どうやら愛称がローズと聞いたので、ロジーを封印したみたい。
レオンを手招きし、しっかりと抱き締める。耳元でゆっくりと言い聞かせた。
「ロジーでもいいのよ。レオンだけがそう呼んだら、すごく特別でしょう? きっとローズも喜ぶわ」
「……ほんとぉ?」
「ええ、お母様は嘘を言わないわよ」
心の中で「たぶん」と付け加えるのは許してほしい。我が子に嘘をつきたくなくても、結果的に嘘になる事例もあるだろうし。確約できない母親でごめんなさいね。
レオンの希望を聞き出したところ、ロジーの方が呼びやすいみたい。私達はローズと呼ぶことにするわ。レオンお兄ちゃんだけが、あの子をロジーと呼ぶのね。特別感があって素敵よ。レオンは嬉しそうに「ろじぃ」と呟いて噛み締めた。
「アマーリアには敵わない、いや……勝てる気がしない」
ヘンリック様は謎の敗北宣言をして、私はこてりと首を傾げた。