軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

507.帰ってくるのは違うと思う

ノックの後、静かに開いた扉から妹が顔を覗かせる。中に入ると、両手を胸の前で組んだ。

「聞いて! お姉様、オイゲンが帰ってくるの」

興奮状態でそう告げる妹に「人前ではオイゲン様と呼ばないとダメよ」なんて苦言を呈してみる。喜ぶユリアーナは「わかってるわ」と笑った。嬉しくて聞いていないわね? あとでもう一度伝えておきましょう。

彼が実家に戻って、まだそんなに経ってないわよね? 何かあったのかしら。心配になるも、この世界には便利な電話などない。手紙を書いて尋ねると仰々しくなるし、返事と同時に本人が帰ってきそう。

「いつ頃帰ってくるの?」

つられてユリアーナと同じ表現をしてしまった。戻るも変だし、やっぱり訪れるが正しいかしら。ティール侯爵家の次男で、当然実家は向こうだもの。帰ってくるはおかしいし、誰かに聞かれるとまずい気がするわ。

私室まで知らせに来たユリアーナは、ハッとした様子で踵を返した。

「彼は明後日よ。私、猫達の世話があるから」

大急ぎで出ていく。淑女教育の賜物か、廊下を走らなくなったのは偉いわ。猫当番は交代制だけど、掃除当番は下女の仕事と被る。そのため汚れていないか確認するだけになっていた。トイレ当番も似た感じ。遊ぶのは自由にして、当番制から外した。

楽しそうに跳ねる猫と遊ぶのは、義務じゃないもの。好きだから撫でたいし、遊んであげたい。ちなみに、今の私はまだ猫との接触はできないわ。あと一週間は我慢してください、とお医者様に言われている。私自身の免疫も落ちている可能性があるし、素直に聞いて窓越しの観察で我慢よ。

食事当番かしら? ユリアーナのことを考えていたら、今度はユリアンが顔を見せた。

「リア姉様、アナ見なかった?」

「猫の当番だと言ってたわ」

「あ、そっか。食事当番が俺だ」

ありがとうと叫びながら、扉を閉めて廊下を走っていく。隣で寝ていたレオンが目を覚ましちゃったじゃないの。

「ゆん? あにゃ……いた?」

「ええ。猫の当番みたいね。私達も見にいく?」

レオンは少し考えて頷いた。まだ眠そうな彼と手を繋ぎ、リリーやマーサを連れて歩き出す。ようやく廊下へ出る許可が下りて、運動不足も解消できそう。軽くなったはずなのに、体が重く感じるのはなぜかしら。

レオンは走ることなく、私を見上げては前を向く。速度を合わせてくれているの? 優しいわね。黒髪を揺らしながら歩くレオンは、一回り大きく感じられた。もう立派な騎士様だわ。