作品タイトル不明
503.天使の一言で命名ね
イルゼの提案で、一日に一度は赤ちゃんと対面する。抱きしめて、甘い香りのする頬に触れる。あまり長い時間はお互いに大変だからと、気を遣っているけれど。
「ローザリンデ、ヴェルヘルミーナ、エルヴィーラ……どれも似合うわね」
でも、リースフェルト公爵令嬢ヴェンデルガルト様と近いから「ヴェルヘルミーナ」は外した方がいいかも。公爵令嬢同士、響きが似ていると紛らわしいわ。
レオンと一緒に戻ってきた赤ちゃんを抱いて、ベッドのクッションに背を預ける。私に似たのか、まだ薄い髪色は金に近い。やや暗い色かしら? いえ、ある程度成長するまで確定できないわね。シュミット伯爵家のくすんだ金髪は、遺伝するのかしら。
目の色は綺麗な青、ヘンリック様と同じ色だった。レオンは同じ色がよかったと唇を尖らせたけれど、仕方ないわ。私が赤い瞳じゃないんだもの。
レオンの妹は綺麗な青ね、お父様と同じだわ。そう伝えたら、レオンは機嫌が直った。私の髪色とヘンリック様の瞳の色……それが嬉しいんですって。黒髪が優性遺伝だと思ったから、金髪で驚いたわ。やっぱり異世界のルールは、前世と違うわね。
「ろじぃ!」
レオンがにこにこと口にした言葉は、先ほどの名前候補の一つから? ローザリンデがいいのね? 尋ねると首を傾げるものの、またロジィと呼んだ。
「いいんじゃないか? ローザリンデ」
「レオンが名付け親ね」
ふふっと笑う。この名前を選んだのは、お父様だったわ。命名したら、王家に届け出る必要があった。貴族の出産だもの、管理するのは当然よね。出産日と性別を書いた専用の紙に、名前を記載する。縁に銀箔が入って、色紙みたいな感じだった。
フランクが預かり、ベルントが馬を走らせる。産まれてすぐではないし、馬車でいいのでは? そう提案したが、慣例らしい。ヘンリック様が産まれた時も、レオンの時も、同じように馬を走らせたとか。
「ろじぃ、ねる?」
ぐっすり眠る娘は、今日この時からローザリンデ・フォン・ケンプフェルト。フォンの称号をもつ公爵令嬢よ。
「愛称はローズでよさそうだな」
ヘンリック様は、レオンを膝に乗せてくすくす笑う。ベッドの上に家族が揃って、互いに子供を抱いて……幸せそのものだわ。
「名前が決まったのか!」
飛び込んできたお父様を、エルヴィンが引っ張る。失礼だと諭す姿に「シュミット伯爵家の未来は明るいわね」と呟きが漏れた。
「ああ、自慢の息子だ」
ここで嫡子と言わないところがお父様ね。貴族としては優柔不断で無能、でも人の親としては優しいし公平だった。嫡子と表現したら、未来を決めつけることになる。もしかしたらユリアンが継ぐかもしれないし、ユリアーナの未来の夫が助けてくれるかも。
照れた様子ながら、父を捕まえた手を離さないところが、エルヴィンらしいわ。扉の隙間からひょこっと顔を覗かせたユリアンは、名前を聞いていない様子だ。何に決まったのかと首を傾げて、リリーに尋ねていた。
「ローザリンデ様か。綺麗な響きだよな」
「すっごい昔の聖女様のお名前でしょ?」
双子の感想に、エルヴィンが聖女様の偉業を披露した。そういえば……エルヴィーラは、エルヴィンと名前の響きが近いわね。消去法で考えても、ローザリンデはいい名前だったわ。