作品タイトル不明
500.甘える順番があるのよ
初乳を飲ませたら、あとは乳母や侍女に任せる。体はあちこち痛くて動きたくなかった。レオンは私にべったりで、理由を尋ねたら「いたいたい」と返ってくる。
出産で呻いたり汗をかいて痛みに耐えたりする姿を見て、すごく怖かったらしい。途中でお父様が連れ出して、エルヴィン達が面倒見てくれたのよ。それでも気遣ってあげられなくて、悪いことをしちゃったわ。
「レオン、こちらにきて」
呼び寄せて、抱きしめる。もう私は痛くないから平気と教え、たくさん頭を撫でた。一段落すると、待っていたようにヘンリック様が頬に口付ける。
「レオン、お父様に譲ってあげられる?」
「うん」
素直に即答したので、大丈夫だと判断した。ヘンリック様は、恐る恐る触れてくる。まるで触れたら壊れるみたいに。注意深く触れては、私の反応を確認した。
「ヘンリック様……大丈夫ですよ。筋肉痛になりそうですけれど」
ふふっと笑い、ずきんと走った痛みを堪える。顔に出さないよう気をつけながら、ヘンリック様の首に腕を回した。そのまま引き寄せる。私の体を跨ぐ形で、両腕を突いたヘンリック様の頭を胸に押し付けた。少しだけ彼の腕から力が抜ける。
密着したヘンリック様は、私より体温が低かった。やや熱っぽい私には気持ちいい。
「出産があんなに苦しいとは知らなかった」
「私はあまり覚えていないのです。頑張ったのはぼんやりと……目が覚めて皆の顔を見て、赤ちゃんを抱いたら、全部忘れました」
苦しかったし痛かった。全身がバラバラになるかと思うくらい、すごく頑張ったの。でも、生まれた赤ちゃんを見たら、どうでも良くなった。痛みは軽くなるし、苦しみは消えた。もちろん、痛みはまた戻ってきたわ。
昔、出産すると交通事故に遭ったくらいのダメージがある。と聞いた覚えがある。表現の内容からして、前世の記憶ね。この世界なら、馬に蹴り飛ばされた……が近いのかしら? 置き換えてみたら、逆に想像できなかった。
「ぼくもぉ」
我慢できなくなったのか。ヘンリック様と私の隙間に、首を突っ込むレオン。擽ったくて笑ったら、変な場所が痛い。満身創痍だけれど、産んでよかったわ。無事に生まれてくれて本当に嬉しい。
「赤ちゃんの名前を考えて、早く呼んであげたい……」
「そうだな。今日明日はベッドから降りないよう、お医者様の指示があった」
「……え? お風呂やトイレはどうするの」
「そのための侍女だろう」
きょとんとした顔で、何を言ってるんだ? と返される。ああ、そうだったわ。生まれてからずっと侍従や執事がそばに居て、一から十まで世話を任せた人だもの。羞恥心は薄いのよね。ちらりとレオンを見たら、嬉しそうに笑い返してきた。
この子も、同じになっちゃうのかしら。