作品タイトル不明
498.産まれるの?
まだ激痛ではない。陣痛じゃないかもしれないわ。でも産まれてもおかしくない時期だった。迷うより、助けを呼びましょう。先輩であるイルゼやマーサの意見を優先するべきだわ。
二人のどちらかを呼んでほしいが、部屋に控えるリリーは頼み事で外に出ていた。不安だけど、レオンにお願いしましょう。
「レオン、誰か……呼んで」
「うん! できゆ」
迷いなく答え、するするとベッドの縁から滑る。そのまま走って行った。もしかして、あの子……靴を履いていないのでは? 確認しようと動いたら、ずきんと痛い。下腹部を押さえて、息を呑んだ。体に力が入る。深呼吸して気持ちを落ち着けていると、リリーの声がした。
「奥様? 大変! イルゼ様とマーサを呼んで」
戻ってきたリリーが、途中でレオンと鉢合わせしたようね。レオンはリリーから離れ、こちらへ走ってくる。やっぱり靴を履いていないわ。後で……いえ、やめましょう。頑張ってくれた小さな騎士様を叱るなんて、おかしいもの。
レオンはベッドをよじ登り、手足をバタバタさせる。転がる勢いを利用して、器用に登り切った。四つん這いで私の近くに来て、可愛い手を伸ばす。痛みに顔を歪めた私は、額に触れる温もりに驚いた。
「いたい、たい。とんへれぇ」
以前に覚えたおまじないで、私を助けようとしている。ありがとうと伝えても、不安なのか。離れようとしなかった。リリーが連れて行こうとしたので、そのままでいいと伝える。
扉の外でリリーが呼び止めた侍従は、イルゼを連れてきた。すぐにお医者様を呼びに、再び出ていく。イルゼは手際良く準備を始めた。侍従や侍女達に、必要な物を手配させる。事前準備はしてあるから、用意した小部屋から運んでくるだけ。
その頃には、私も痛みで汗びっしょりだった。こんなに疲れるの? 以前聞いた話では半日とか、一日とか掛かるのよね。無理……絶対に無理ぃ!
心で叫んだのに、溢れたのは「ぐぅ……」という奇妙な呻き声だった。体を丸めても伸ばしても痛い。息を吸っても吐いても痛みが変わらないなんて、おかしいわ。痛くなったり楽になったりを繰り返しながら、頭がぼんやりしてくる。
気づいたらお医者様が到着していて、体はびしょびしょで……気が遠くなるほど痛かった。どうしよう、私は無理かも。そんなに強くない。怖い、お母様……。
手を握る温もりと、遠く聞こえる励ましの声。どれだけ時間が経ったのか。まったく覚えていない。何かが終わったのだけは、かろうじて理解した。ぐったりと倒れ込んだことで、天蓋部分の綱を掴んでいたと知る。いつの間に?
なんだかすごく眠いの。