作品タイトル不明
497.急激に動き出す子供達
半月前、オイゲンは皆に見送られ、馬車に乗り込んだ。後ろに彼の日用品を積んだ荷馬車が続く。ハンナ様がコツコツと運び込んだ量に比べたら、だいぶ少なかった。一部の日用品は、騎士の育成校の宿舎に送られる。
結局、オイゲンは騎士を目指すことに決めたらしい。両親と話し合い、休日もたびたび離れに顔を出すという。婚約しているから、交流はある程度必要だもの。その分も服や日用品は置いていくのね。
ユリアーナはより一層、淑女教育に精を出している。一般教養レベルを超えて、己を磨き始めた。エルヴィンを含め、弟妹は三人とも家庭教師をつける予定だ。お父様はレオンの教師として採用したけれど、まだ二年弱は仕事がない。
お腹の赤ちゃんが生まれたら、領地運営を学んでくると言い出した。お父様が傾けたのに、大丈夫かしら。心配だが、公爵家の管理人もいる。彼らの方に権限を持たせたまま、助手からスタートするみたい。
ユリアンはオイゲンを追って、同じ学校に入るための訓練と勉強を始めた。エルヴィンに関しては、来年以降、経営を学びに学校へ通う。皆、それぞれの未来へ向けて飛躍する分岐点なのね。
私も何か新しいことを始めてみようかしら。ガラスボタンの店は、公爵領の特産になったので手を離れた。刺繍は苦手だけれど、上手になるかも。組み紐が中途半端だから、そちらが優先ね。
お腹が大きくなるたび、レオンの甘えは強くなる。きっと甘えられる時期を察しているのね。赤ちゃんが生まれたら忙しくなる。それでもレオンを優先するつもりよ。
もう乳母も選んだわ。若い侍女で、出産を機に休んだ子がいるの。その子の復帰の場として、乳母の職を用意した。育児経験のあるイルゼやマーサも手伝ってくれる。乳母の子は女の子だから、乳姉妹として育つのは最適の環境だった。
何より……赤子のうちはほとんど寝ている。記憶も曖昧で、まず覚えていないわ。だからレオンと過ごす時間を優先するつもりだった。レオンはもう覚えている年齢だから、愛されていると実感してほしいの。
もちろん赤ちゃんも大事だから、レオンと一緒に触れ合う時間を持つわ。貴族夫人は出産で社交を休む人もいる。そう考えたら、出産後は専業主婦と変わらないわ。育児の手は足りている。
「何も怖がらなくていいのよ。愛してるわ」
お腹を撫でながら呟けば、隣で遊んでいたレオンが振り返った。
「いもぉと?」
「話しかけていたの。もういつ生まれてきてもいいわよ、って」
「ぼくも! ぃいよ!」
手にしていたウサギのぬいぐるみを置いて、四つん這いで近づく。触れる手前で止まり、ゆっくり手を伸ばした。お腹が大きくて苦しいので、ここ数日はベッドの住人だ。レオンもおもちゃや絵本を持ち込んで、ベッドで過ごしている。
あまりに離れないので、鍛錬ごっこに連れ出すようユリアンに頼まなくては。そう思ったところで、下腹部にずきんと痛みが走った。お腹を撫でるレオンが首を傾げる。
「おかぁしゃま、いたいたい?」