作品タイトル不明
492.推薦のお礼を伝える
マルレーネ様は次の約束をして、引き上げた。温室が完成した頃がいいので、ヘンリック様経由で完成を伝えるつもりよ。庭師のハンス達には、フランクが話すらしい。
馬車を見送り、公爵家から護衛の騎士を出す。往路は王宮から来たけれど、復路は公爵家から送った方が早いもの。途中で王宮からの騎士達と会ったら、引き継いで帰るらしい。この辺はシュミット伯爵家の頃は関係なくて、まったく知らない知識だった。
説明してくれたヘンリック様にお礼を伝え、もう一つ感謝を重ねる。
「二つ目は何の礼だ?」
「オイゲンを推薦してもいいと仰った件ですわ。とても嬉しかったのです」
「当然のことだ。あの子はきちんと立ち直って、自らの未来を選んでいる。有能な子がいれば、推挙するのは臣下の役割だからな」
過去に植え付けられた価値観であっても、ヘンリック様は気にせず適用する。反発するより、上手に利用する方がいいと考えているんですって。話をしながら戻る私の足元を注意し、危ないと思えば身を挺して助ける。優しい夫には、感謝の言葉がいくつあっても足りないわね。
「レオンは眠ってしまったみたい」
見送りに行く前から、もう寝落ちしていた。ルイーゼ様と手を繋いで、ぐっすりだったの。起こさないように手を解く間、ローレンツ様がおろおろして。ふふっ、思い出すと微笑ましいわね。侍従に任せず、カールハインツ様が抱き上げて運んだ。
エルヴィンよりオイゲンの方が相性が良さそうと感じたのは、跡取り問題や同情ではないの。ルイーゼ様の髪飾りが落ちた時、オイゲンは拾ってローレンツ様に渡した。小さな気遣いと、先回りして動けるところ。侯爵家で身に付けた礼儀作法や言葉遣い、すべてが彼を磨いてきた。
王族の隣に侍っても遜色ない人なんて、そんなにいないわ。
「意外とユリアンが向いているんじゃないか?」
「無理よ。あの子の粗雑な言動を知っているでしょう?」
思わぬ発言に、反論してしまった。最後まで聞くべきだったかしら。
「不思議と、アマーリアがいない場所では行儀がいいぞ」
「……そうなの?」
驚き過ぎて足が止まる。付き合って止まったヘンリック様は、なんでもないことのように続けた。
「あれは甘えているんだ。……俺と同じか」
最後の一言はぼそっと、小さな声で。それなのに聞こえてしまった。ヘンリック様は一人っ子よね? 誰に甘えたのか気になるわ。もしかして、イルゼ? フランクの可能性も……。
「アマーリアは優しいから、つい……甘えたくなる」
囁かれて「私?!」と素っ頓狂な声が出た。